Wednesday, May 16, 2007

MTAS退場

 いろいろと問題続きだったMedical Training Application System(MTAS)だったが、昨日、保健相のPatricia Hewittが、MTASを今後、専門医研修の選考に使わないことを公式に発表した。(MTASについては、3月の「迷走するMMC1-4」と4月の「MTASその後」に詳しく書いてあります。)

 現在、ラウンド1Bと呼ばれる、MTASによる最初の選考に漏れた応募者たちに対する追加の面接が進行中である。これは5月末までに終了し、6月頭に結果の発表、6月中旬までには、合格者の意思の確認が終わり、ラウンド1で募集された研修医のポストがほぼ埋まると見られている。ラウンド2のために研修医の全ポストの20%が用意されており、それらに加えてラウンド1で埋まらなかったポストについては、その後のラウンド2で募集される。今回の発表によると、ラウンド2以降、MTASは用いられず、旧来の履歴書を元にした選考が、各地域ごとにおこなわれることになるそうである。

 MTASの大混乱が明らかになったのが3月初め。3月9日におこなわれた、制度の見直し委員会の最初の会合で、MTASの不備が早々に指摘された。それでも政府は、これらの問題は新しい制度が始まる際にありがちな問題であり、ラウンド2までには改善が可能であるとか、来年以降は大丈夫であるという従来の主張を繰り返していた。

 しかし、4月下旬、セキュリティーの脆弱性のために応募者の個人情報が、部外者に容易に閲覧可能であることが発覚した(それもひとつではなく、2日続けて2件)のは、政府にとっては強烈な打撃になったようである。MTASは即座に閉鎖された。当初は、セキュリティーを強化し、数日のうちにサイトを再開する予定であった。しかし、結局、内部調査を経て、セキュリティーの違反は警察に届けられた。そして、昨日の発表へとつながった。MTASサイトは、各地域のDeaneries(卒後研修の責任機関)のみしかアクセスできないようになっている。

 Patricia Hewittの声明で、MTASは今後は選考のためには使われないが、Deaneriesが選考の経過を「モニター」するために使われることになるとされている。役に立たないシステムを使って何をモニターするのか、そのモニターが信用できるのか、大いに疑問である。これは、多額の税金を投入して立ち上げたシステムを、たった一度使っただけでお蔵入りさせるわけにはいかないという、政府の体面を保つための策であるというのが、新聞のコメント欄やブログによると、おおかたの見方のようである。

 Hewittの声明は、何を今さらという感じである。MTASが役に立たないのは、数ヶ月前からわかっていたことである。もっと言ってしまえば、募集が始まるずっと前から、あちこちから警告されていたのである。まあそれでも、わかりきっていたこととはいえ、政府が公式にそれを認めたというのは、わずかながらの前進と言えないこともない。

 さて、ラウンド1であるが、混乱は続いている。面接に行った研修医たちからは、選考の科や面接時間・場所の取り違えなどの問題が山ほど報告されているらしい。ロンドンの追加面接では、Deaneryが、面接に参加してくれるコンサルタントを集めるのに苦労している。

 さらに、Remedy UKが保健相を相手どり、MTASによるラウンド1の選考の合法性を問う、Judicial Review(裁判官による審問)を起こした。今日と明日の2日間、高等法院で聴聞が開かれる。結果のいかんによっては、今後の成り行きがまったく変わってくる。

研修医の選考に関するJudicial Reviewはこれが2件目である。最初のReviewは、今年の初めにおこなわれた、BAPIO(British Association of Physicians of Indian Origin)が保健相を相手どって起こしたものである。外国人医師の応募をVisaの種類と滞在許可の長さによって制限するという通達の合法性を問うReviewであった。結果は政府側に有利な判断が出たものの、BAPIO側に上訴する権利が与えられたため、政府は、上訴審の判断が出るまで、当初の応募条件を実施するのを保留せざるを得なくなった。このため、外国人医師の今回のラウンドでの応募が可能となり、応募者が政府の予想を大幅に上回る一因になったとみられている。

 このMTAS騒動、まだまだ先行きが不明である。今回のRemedy UKのReviewの結果がどちらに転んだとしても、負けた側が上訴するのは目に見えている。BAPIOの上訴審は10月末に予定されている。新制度が始まる8月に、NHSから一斉に研修医の姿がなくなるという話も、冗談でなくなるかもしれない。

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