Sunday, May 20, 2007

さらなる辞任劇

 British Medical Association(BMA)のChairmanのMr James Johnsonが辞任した。辞任のきっかけになったのは、3月17日付けのTimes紙に掲載された手紙である。

 この手紙は、Mr Johnsonと、Academy of Medical Royal CollegesのトップのDame Carol Blackとの連名で出された。その中で彼らは、MTAS Review Groupの勧告案が「(修正しうる)最高の案」であるとした上で、Chief Medical Officer(CMO、政府のメディカル・アドバイザーで、国の医療や医学教育の方針を決める立場にある)の提唱する研修制度の改革を、引き続きサポートしていくとしている。

 これには、掲載直後より次々にコメントがついた。(さきほどTimesOnlineを見た時は512のコメントがついていた。)いずれも(といっても全部を読んだわけではないけれど)現場の医師からの反論で、Mr JohnsonとDame Blackの意見は医師の声を代弁していないと言っている。

 BMAスコットランド支部のコンサルタント部会も、この手紙の内容は部会の意見に反しているとする声明を出した。

 これに先立ち、水曜と木曜には、Remedy UKが起こしたJudicial Reviewがおこなわれた。関係者として意見を述べる機会を得たBMAは、Review Groupと政府を擁護する立場に立ち、Remedy UKの方針を批判した。研修医の多くはRemedy UKをサポートしており、BMAの態度は彼らの怒りを呼んだ。

 その直後にこの手紙である。ネット上の情報によると、この2つの「事件」により、BMAには何百もの会員からの退会の申し込みが相次いでいるという。

 これらの声に押され、Mr Johnsonは20日の夜、辞任を表明した。辞任の手紙の中で彼は、「Times紙の手紙は、BMAの幹部に相談せずに(独断で)発表した」ことを認めている。

 BMAは医師の労働組合的な組織であることになっている。しかし、コンサルタントとGPの利益擁護はするが、それ以外の医師たち(研修医や非研修ポストの医師たち)の立場はあまり鑑みないと言われてきた。ここ数年は、政府の顔色ばかりうかがっていて「誰のための組合か」と言われている。

 MTASが問題化した際も、研修医部会のChairがReview Groupに参加したものの、途中でReview Groupの案に反対して退出し、その後議論に復帰したと思ったら、今度は、研修医の総意を反映しない修正案に合意したりし、組合としての役割を果たしているとは言いがたい。実際、先日のイングランドの研修医部会の会合では、研修医部会の Chairに対する不信任案が提出された。(これは否決された。)

 MMC / MTASは、全員がハッピーになれる解決案を出すのが難しい問題であるのは間違いない。しかし、医師を「代表する」機関の代表がお上のほうばかり見て、現場の意見をすくい上げることができないのであれば、その機関の存在意味は、ない。このようなトップを抱える組合しか持てないところに、英国の医師たちの不幸の原因の一部がある。

 いっぽうで、既存の団体が役に立たなければ、新しいものを作って活動しようという機運はある。現場の医師たち、とくに研修医たちは、CambridgeのProf Morris率いるグループと、研修医が立ち上げたRemedy UKというグループを、彼らの声を代弁する団体ととらえている。Prof Morrisのグループは、Remedy UKの 3月の街頭デモの少し前、シニアの医師としては初めて、研修医たちをサポートする声明を公に発表した。その後も、インターネットでおこなった、医師を対象としたMTAS / MMCに関するアンケート調査の結果をTimes紙に発表したり、あちこちの医学雑誌にMTASを批判する声明を出している。

 くだんのMr JohnsonとDame Blackの手紙は、14日付けのTimes紙に載った、Prof Morrisのグループの手紙に対する反論でもあった。Prof Morrisらは、現在進行中の研修医の選考を中断し、新制度への移行を遅らせるなど、いくつかの修正案を提案している。推測だが、Mr JohnsonとDame Blackは、Remedy UKやProf Morrisのグループの動きを牽制し、自分たちが、自分たちがChairをつとめる「組織」の名の下に、大多数の医師の声を代弁していることを示したかったのだと思われる。

 前回、前々回の記事に続くが、インターネットや携帯電話により、情報の動きが桁違いに速くなっている。使いようによっては、ネットワークを形成し、意見を集約したり、機動的に動くのも可能になる。今回の一件では、Mr Johnsonは、新興勢力からの圧力をはねのけようと、メディアを使って反論を試みた。しかし、彼の「虚実」は、誰もが見ている前であっという間に明らかになった。みずから振り上げた刀の犠牲になったのである。

 もっとも、辞任する潔さが残っているだけ、まだましだと言えるかもしれない。MTAS問題に関わるビッグ・ネームの辞任は、彼で3人目。次は誰だろうか。

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