Saturday, April 28, 2007

発音のクラス–英語の発音1

 先週から、English pronunciation: stage 3のクラスに通い始めた。City Litというアダルト・エデュケーション・センターで週1回、19時40分から2時間、10週間のコースである。

 stage 3は一番上のグレードである。stage 3を受けるためには、City Litでstages 1と2を修了していなければならない。私は、2001年にstages 1と2のクラスを続けてとったので、5年半のブランクを経てのstage 3である。2001年当時は、stage 3のクラスはなかったのだ。いずれ始まるという話はあったもののなかなか実現せず、いつのまにかチェックするのを忘れてしまっていた。

 半年ほど前、ふと思い立ってCity Litのホームページをのぞいてみたら、なんと、stage 3があるではないか。早速面接に行き、その足で申し込みをした。stages 1と2は、いくつかクラスがあるが、stage 3はひとつしかない。定員は12人なので、早く申し込まないとすぐに満員になってしまうのである。

 stages 1や2を取った時は、申し込み自体がこんなに簡単にはいかなかった。私が外国人で、イギリスに来てまだ2年目だったからである。アダルト・エデュケーション・センターは教育機関なので、国から補助を受けている。そのため、イギリス人とEU出身者が優先される("home" studentという)。イギリス国籍のある人でも、3年間イギリスを離れていると、home studentではなく、"overseas" student扱いになる。overseas studentは、home studentだけでコースの定員が埋まらなかった場合に限り、home student用の学費で受講できる。どうしてもhome枠に割り込んで受講したければ、home用の3倍の学費を払わなくてはならない。

 もっとも講師側も慣れていて、同じコースでいくつかクラスがある場合、空きができそうなクラスを教えてくれ、見学用のパスをくれる。それを持って初回の授業に参加し、次回からは、空いている席にhome studentのかわりとして受講できるようになるわけである。

 私はフル・タイムの仕事をしており、すでに英国滞在が3年を超えていることもあり、今回はhome studentとして問題なく登録できた。そうでなければ、ひとつしかないクラスを受講できる可能性は、ほとんどゼロだっただろう。

 さて、この発音のクラス、これまでに挑戦してきた数々の英語学習法の中でも、一番学習効果が得られたものである。2001年の半年間、このコースで発音を学習したのが、その後の英語上達の土台になっている。効果がすぐに目に見えてあらわれたわけではなかったが、あの半年がなければ、その後の上達はなかったと思う。

 講師は、5年前と同じJ。登録した時は、クラスが始まるまでに復習しておこうと思っていたのだが、なにもしないままに半年経ってしまった。まあ、徐々に思い出すだろう。楽しみである。

Friday, April 27, 2007

MTASその後

 MMCの迷走はその後どうなってしまったのだろうか、と思っている方がいるかもしれない。指導医たちが、MMCが予定通りに開始されるという前提のもと、研修の評価法を巡って議論しているかたわらで、研修医の選考を巡る迷走は、依然として続いている。

 MTASのチーフのProf Alan Cockardに続いて、4月5日には、MMCのNational Clinical AdvisorであったProf Shelley Heardが辞任した。保健相のPatricia Hewittは、ラジオのインタヴューで、ついに、研修医たちに対して謝罪の言葉を口にした。

 緊急見直し委員会が3月22日に発表した案により、応募資格を満たす応募者全員が、第1志望のポストの面接を受けられることになった。現在、新たな面接(ラウンド1Bと呼ばれている)の日程の調整をしている。ロンドンでは新たに5,000人を面接しなくてはならないとかで、面接場所や日程の調節に加えて、面接にあたるコンサルタントの確保におおわらわのようである。SLaMのコンサルタントのところにも、ロンドン・ローテーションのDeanからのメールがまわってきて、ボランティアで面接員を引き受けてくれるように呼びかけていた。

 British Medical Association(BMA)によると、34,250人が18,500の研修ポストに応募したとされている。15,750人が研修ポストにつけない計算になる。Department of Health(DH)は一貫して、そんなに職にあぶれる医師が出るわけがないと言い続けてきた。しかし、先日リークされた文書によると、DHは10,000人の研修医が研修ポストにつけないとみて、善後策を練っているらしい。政府のお得意の予測によると、この10,000人の多くは非英国/EUからの医師となるそうである。英国/EU出身で研修ポストにつけない医師はわずか500から1,300と推定し、優先して対策をたてるつもりでいるらしい。(つまり、非EUの人は知ったこっちゃないということである。)これだけでも問題ありなのだが、さらに、DHは、これらの研修医をVoluntary Service Overseas(VSO)を通じて、海外に派遣することを考慮しているらしい。VSOはボランティアで海外に行く医師のための組織であって、研修ポストの不足を補うものにはなりえないと思うのだが。

 British Medical Associationのアンケートによると、回答した648人の研修医のうち、4.5%の研修医がすでに海外からの仕事のオファーを受けており、55%は、もし研修ポストがとれなければ、海外にポストを求める、44%が医学以外の分野で仕事をさがすと回答している。非研修ポスト(スタッフ・グレードやトラスト・グレード)についてもよいと回答したのは、3分の1に過ぎない。

 MTASは、研修医の選考という本来の目的のためには、すでに無用のものと化してしまっているが、面接日程の調整や応募者への連絡には、これまで同様に使われていた。登録している応募者は、MTASのアカウントを持ち、パスワードで保護された個人のメール・ボックスを通じて、面接の日程や選考結果についての連絡事項を受け取る。

 ところが、先日、2つのセキュリティ・エラーが見つかった。ひとつは、MTAS内でメール・ボックスにアクセスすると、URLに2桁の数字が表示される。この数字を変更すると、パスワードがなくとも、他人のメール・ボックスの情報にアクセスが可能になるというエラーである。もうひとつは、ネットで出回ったある特定のURLを打ち込むと、MTASのサイト上に保存されていた、Foundation Training 1の応募者のリストにアクセスできるというもの。このファイルには、住所や電話番号、犯罪歴、sexual orientation、宗教といった個人情報が含まれていたという。どちらも、呆れて口も聞けなくなるほどお粗末なミスである。

 このセキュリティ・エラーは、新聞やTVで、派手に報道された。MTASのページは即座に閉鎖され、DHは、謝罪と言い訳の混じった声明を出した。

 MTASは現在、「厳重なセキュリティ・チェックのために一時的に閉鎖」されており、4月30日に再開されるそうである。しかし、今後の連絡はどのようにしてとるのであろうか。全員の面接の日程の調整が終わったわけではないと聞く。ラウンド1Bの面接は来週から始まるというのに。DHのお粗末な仕事に振り回される研修医たちが、ほんとうに気の毒である。

Monday, April 23, 2007

帰国売りの本

 日本語の本を8冊、帰国売りで購入した。しめて11ポンド(2600円)。悪くない買い物であった。

 「帰国売り」というのは、イギリス滞在を終えて日本に帰る人たちが、不要品を処分するのに売りに出すことをいう。日系のスーパーマーケットに設置してある掲示板や、インターネット上の掲示板に広告が出ている。私は、UK Mumbo and JumboMixBなどを定期的にのぞいている。

 受け取りに行く手間を考えると値段が割高だったり、人気があるものはすぐに売り切れてしまう。それでも、7年の間に10回近く、帰国売りで買い物をした。炊飯器や変圧器、プリンター、バランスチェア、組み立て式ラック、旅行のガイドブックなどである。

 本は、なかなか難しい。1-2冊だと、わざわざ受け取りに行くのは面倒。いいと思うと値段が不満だったり、すぐに予約済みになったり。

 今回は、8冊もいいと思うものがあったのと、受け取り場所が歩いて行ける距離だったので、早速連絡したら、運よく、8冊とも手に入れることができた。

 日本語の本は貴重である。日系の書店で新品を買うと、日本の正規の値段の3倍近くする。アマゾンで買って送ってもらうという手もあるが、送料がばかにならない。日系の古本屋もあるが、あまり安くない。

 ふだんは英語の本を読んでいるが、さすがに日本語を読むほど早くは読めない。体調が悪いとき、頭がうまく回らないとき、気分が沈んでいるとき等は、読むスピードががくっと落ちる。ときには、頭が英語をまったく受けつけなくなる。そんなとき、日本語の本は、いい。活字大好き少女(今では活字大好きおばさん)は、本を読んでさえいれば、幸せな気分になれるのだ。

 イギリスに来た初めの年、日本が恋しくなるどころか、ロンドン生活を最大限に楽しんでいた。ところが、秋口、突然のホームシックに襲われた。気分はどんどんうしろ向きになるばかり。どうしようもなくなり、ある日、ジャパンセンターに行き、値札など見ずに文庫本を10冊ほど買いあさり、数日間、部屋にこもって本を読み続けた(仕事には行ったけれど)。これくらいで解消できるホームシックなのだから、かわいいものである。

 日本に帰るたびに、スーツケースに入るだけ文庫本を運んでくるのだが、1-2ヶ月で全部読み切ってしまう。非常用に取っておかなくてはと思いつつ、なかなか自分を律しきれず、ついつい手がのびてしまうせいである。いざ必要になった時に後悔したことは、数知れない。今回の8冊は、大事に取っておかなくては。

Saturday, April 21, 2007

洗眼

 アトロピン事件で目の大切さを痛感して以来、朝の洗眼を日課にしている。左右それぞれ30秒ずつ。すっかり習慣になり、朝のシャワーの前には洗眼というのが儀式化している。きたる花粉症の季節にも、症状の軽減に役立つのではないかと期待している。

 洗眼液は、Optrexというメーカーのものを使っている。日本で愛用していたアイボンに比べると爽快感が足りないのをのぞけば、文句はない。

 問題は、洗眼用の容器である。

 左がイギリスのもの。右が、アイボンの付属容器。(ずっと使っているので、やや年季が入っている。)

 日本製のものは、左右非対称で、内側よりが一番くぼみが深く、外側にいくにつれてカーブが緩くなっている。これを使うと眼窩にびたりとはまる。

 イギリスのものは、左右対称で、くぼみが浅い。これで洗眼すると、外側から液がこぼれてくる。いくつかのメーカーのものを見てみたが、どれも形は似たり寄ったりである。

 私の顔の凹凸が足りないせいかと思い、とびきり彫りの深い友人に、両方とも試してもらった。イギリス製のものは、容器の外側の端が目の外側ぎりぎりにくるように使うと、かろうじて中の液体がこぼれない。しかし、容器が軟組織にあたって不快だという。日本式のものは、液もこぼれないし、使い心地がいいと言っていた。

 彼ほど彫りが深くない人たちは、この容器でどうやって洗眼しているのだろうか。不思議である。

Thursday, April 19, 2007

指導医研修その2

 昨日の研修では、Royal College of Psychiatrists(王立精神科学会)から、新制度の立ち上げに関わっているコンサルタントが2人来て、SLaMのコンサルタントたちに、評価制度の枠組みが決まるまでの背景、評価制度の大枠の説明をした後で、全員で模擬面接ビデオを使って、mini-Assessed Clinical Encounter(mini-ACE)の練習をした。mini-ACEでは、研修医は15−20分程度かけて患者の面接をする。

 ST3の研修医という設定の男性医師が、俳優さんが演じる、大量服薬で自殺を図った女性の診察をしている。評価項目は下記の7点。

  • History taking
  • Mental state examination
  • Communication skills
  • Clinical judgement
  • Professionalism
  • Organization/efficiency
  • Overall clinical care
 評価者は、それぞれの項目について、各項目ごとのST3の到達レベルと採点基準のマニュアルをもとに、1-6段階で評価する。総合で4というのが合格ラインである。ビデオをじっと見る人、メモを取る人、マニュアルをちらちらと見る人。みな真剣だった。

 それなのに、結果はといえば、笑ってしまうほどにばらばらだった。総合点は2から5まで割れ、半数がこの研修を合格とし(4以上)、半数が不合格(3以下)とした。研修医のパフォーマンスから得る印象は、みな似たり寄ったりのようなのだが、点数化するとまったく一致しない。ちなみに、学会の模範評価は、総合点2の不合格だそうである。

 公平性と一貫性をどのように保つのかが大きな課題であるということで、全員が一致した。

 ほかに問題点として指摘されたのは、誰が評価するのが一番客観性が保てるかという点である。WPBAは、他の試験同様、試験の場でのパフォーマンスが唯一の評価の対象になる。自分が指導する研修医を評価すると、評価がどうしても甘くなるのではないかという意見が出された。直接の指導医以外のコンサルタントが評価するほうがいいのかもしれない。

 そして、一番の課題は、時間である。忙しい臨床現場で、どのように評価の時間を取るのか。学会から来たコンサルタントたちは、通常の1時間のスパーヴィジョンで十分こなせると言っていたが、不安は残る。

 新制度が始まる8月まであと4ヶ月もない。今後も指導医研修は続くそうである。

 余談であるが、ビデオに出演した医師は、オックスフォードの後期研修医で、パフォーマンスの程度をあらかじめ指示されて「演技」したそうである。彼の臨床能力が不合格のレベルなわけではない、近い将来、仕事の面接で彼をインタヴューすることがあったら、あれが彼の実力とは思わないように、と、学会からきたコンサルタントは念を押していた。

Wednesday, April 18, 2007

指導医研修その1

 今日の午前中は、コンサルタントたちの研修があった。Modernising Medical Career(MMC)による新制度での研修医の評価方法についての、指導医の研修(Training for Trainers)である。

 新しい研修制度では、精神科の研修医は、ST1からST6までの6年間の一貫研修を受ける。最初の3年間は一般精神科の研修、ST4と5は精神科内での下位専門研修(司法精神科、児童精神科等)、最後の1年間はコンサルタントになるための準備期間と位置づけられている。研修は、各competency(習得必須項目とでも訳すのでしょうか)ごとに、それぞれのグレードにおける到達目標が設定されている。達成度は、Workplace-Based Assessment(WPBA、仕事現場での評価)と呼ばれる、実地試験によって評価され、到達目標を達成できなければ次のグレードに進めない。

 WPBAと並行して、これまでどおり、筆記とOCSE(Objective Structured Clinical Examinations、-仮想設定による-構造的臨床能力試験)、面接によるmembership試験も、引き続きおこなわれる。

 WPBAの導入の背景には、臨床能力が、アカデミックな知識や仮想的状況での試験でしか評価されておらず、実際の仕事現場での仕事ぶりや他職種スタッフとの協調性についての評価が欠けているという、現行制度に対する反省がある。

 WPBAの主なツールは次の8つ。

  • Directly Observed Procedural Skills for ECT (DOPS)
  • Mini-Assessed Clinical Encounter(mini-ACE)
  • Assessment of Clinical Expertise (ACE)
  • Case-based Discussion (CbD)
  • Multi-source Feedback (MSF)
  • Patient Satisfaction Questionnaire (PSQ)
  • Case Presentation Feedback (CP)
  • Case Conference Feedback (CC)
 DOPSは、電気けいれん療法の手技についての実地試験。min-ACEとACEは、実際の患者を設定された時間内に面接し、面接態度や面接の内容を評価する試験。CbD、CP、CCは、担当患者の症例提示や症例検討と指導医からのフィードバック。MSFとPSQは、同僚や患者からの評価である。

 これらの評価項目は、同僚や患者からのフォーマルな評価を除けば、研修医のスーパーヴィジョンを通して、現在でも日常的におこなわれている。WPBAは、これらをシステム化し点数評価して、研修の必須条件とする。

 WPBAはすでに、初期一般研修にあたるFoundatio Trainingでは導入されており、STでは次のローテーションから導入される予定である。新制度開始を前に、各科の王立学会は、専門医研修のカリキュラムを確定するのに忙しい。王立精神科学会は、中でも準備が進んでいるほうらしい。それでも、各グレードのどの時期に、どの評価を、どのような頻度で行うかについては、まだ最終的に決まっていない。評価尺度の有用性や妥当性は、現在パイロット・プロジェクトが、10のモデル地域で進行中で、予備的解析結果がようやく出始めたところだという。新制度は、8月から始まる予定なのでは?あと4ヶ月もない。(こんなことで驚いていては、イギリスで仕事はできない!)

Sunday, April 15, 2007

Farmers' Market

 Marylebone(マリボーン)にあるFarmers' Market(ファーマーズ・マーケット)に行ってきた。マーケットにはたまに行くが、ファーマーズ・マーケットはこれが初めてである。

 ファーマーズ・マーケットというのは、産地直送の食材を、生産者自身が店頭に立って売るマーケットである。普通のマーケットと異なり、The National Farmers' Retail & Markets Associationによる、商品の生産場所や加工方法等の諸条件をクリアした生産者だけが、出店を許される。

 ロンドンには現在15のファーマーズ・マーケットがあり、マリボーンのマーケットは、その中で一番大きい。

 「食」がマイブームなのだから、ファーマーズ・マーケットに行ったことがないなんて、許されない。おまけに、半袖で十分なほど暖かい、散歩日和である。天気がいいのでお昼になると込むに違いないと踏んで、10時前に家を出た。(マーケットは日曜の10時から14時しか開いていない。)

 マイバッグをぶら下げて、日曜の朝の静かなSohoを抜けてOxford Streetを歩くこと30分ちょっと。着いたところは、地下鉄のBond Street駅から数ブロック北に行った、Cramer Streetにある駐車場。20あまりのストールが並ぶ。

(通路がそんなに広くないので立ち止まって写真を撮ることができず、写真の出来はよくありませんが、せめて雰囲気だけでも伝わるでしょうか。)

 どれもこれも見るからにおいしそうで、質を考えるとひじょうに安い。果物や加工食品のストールでは、嬉しいことに味見ができる。牡蠣をその場で殻を剥いて食べさせてくれるストールもあった。もちろん、牡蠣も食べたし、味見もたくさんした。

 バッグ2つ分の野菜と、ヤギのチーズ、チューリップの花束を買い、重いバッグを抱えながら、また30分歩いて家に帰った。次回は、車輪付きの買い物バッグを用意しなくては。

Saturday, April 14, 2007

土曜の朝の訪問者

 朝10時半、フラットのドアを軽くノックする音がした。ドアを少しだけ開けてのぞくと、工具を腰に下げたおじさんが立っている。「Coralから頼まれて来たんだけれど、お宅のキッチンの窓から外に出させてほしい」と言う。

 昨夜帰宅すると、フラットの入り口に手書きのメモが残っていた。「Coralに連絡ください。あなたと話す必要があります」とある。Coralというのは、フラットのある建物の隣にある、スポーツ専門のブックメーカーである。私は賭け事は弱いので、これまでに足を踏み入れたこともない。何ごとかと思いすぐに降りてみると、店は閉まっていて、「システムの不都合で早じまいします」と貼り紙がしてあった。

 で、今日。エンジニアのおじさんに聞くと、昨日、お店で突然シグナルが入らなくなり、復旧作業のため、ケーブルとディッシュを点検しているとのこと。なぜかディッシュはうちのフラットの「バルコニー」の端に取りつけてあり、うちのキッチンからしかアクセスできない。「なにしろ今日は大事な日だから、 (システムがダウンして)Coralはパニックになっている」と、笑う。あ、そうか。今日は Grand Nationalの最終日であった。(Grand Nationalは、リバプール郊外のAintreeで行われる、イギリス最大規模の障害競馬。)

 何せ土曜日の午前中。パジャマのままでのんびりしていたところである。でも、うちのキッチンが唯一のアクセスなら、しかたがない。外で待ってもらう間に着替えて、入り口を開けた。我が家は土足厳禁なので、靴を脱いでもらいたいと伝えると、おじさんは気持ちよく聞いてくれ、靴を手にバルコニーへ。

 バルコニーと言っても、人間1人分の幅しかなく、ふだんは鳩がうろうろしている程度で、私はこれまで、家の前を通るチャイニーズ・ニューイヤーのドラゴンの写真を撮るのに一度出たことがあるだけである。キッチンの小さな窓から這い出て(この窓も、腹這いにならないと通れない)作業すること15分ほど。おじさんはチェックを終えて戻ってきた。ディッシュは問題なかったという。

 もし必要があったら、また来るかもしれないと言って、おじさんは帰っていった。律儀にも、バルコニーからキッチンに戻る時はもう一度靴を脱いでくれる、気の利くおじさんだった。

 その後、何の連絡もないが、システムは復活したのだろうか。

Friday, April 13, 2007

食の大切さ

 このところ、「食」がマイブームである。

 イギリス生活も8年目に入り、嗜好もだんだんに脱日本人化してきて、肉がいっぱいの食事に抵抗が少なくなってきた。また、冬の間に、活動性が落ちるのと反比例するかのように食べる量が増えたので、胃が膨らんだ。怖くて体重など測れない。エイジングも重なり、おばさん体型まっしぐらである。このままではまずい。

 そこで、イースター休暇の旅行のあとから、食生活改善に励んでいる。まずは胃を縮ませるべく、野菜と果物を中心の食事にかえた。外食もやめて、毎日家で山盛りのサラダを食べている。ついでに、コーヒーと紅茶もやめて、ハーブ・ティーにかえてみた。

 食生活改善プロジェクト4日目の朝。寝起きがものすごくいいことに気がついた。目覚ましが鳴る前に目が覚めて、そのまますっとベッドから出られる。こんなのは何年ぶりだろう。

 人口の20%強が肥満のイギリスであるが、その一方で、食に関心のある人も多い。両極端なのである。後者の中では、宗教的な理由なしに、魚は食べるが肉は食べないフィッシュタリアンや、肉も魚も食べないヴェジタリアンがたくさんいる。有機栽培(オーガニック)の食材も人気が高く、オーガニック・ショップはどこも大人気で、新しいショップがあちこちに開店している。本屋には、「体にいい」食に関する本があふれている。

 数年前には、炭水化物を減らしてタンパク質をたくさん取るという、アトキンス式ダイエットが流行した。最近の「体にいい食事」のトレンドは、野菜と果物である。これらをたくさん食べて、適度な量のタンパク質(肉や魚、チーズ)とナッツを組み合わせ、炭水化物は、精製されていないものを少量に抑えるというのが理想らしい。

 日本では、基本9品目をバランスよく食べるとか、1日30品目を食べるなどが推奨されている。果物は単糖類のため、あまりたくさん摂らないほうがいいとされている。この違いは、日本とイギリスの食生活の違いだけでなく、体質のためでもあるのだろう。

 イギリスに住んでいて、日本式を完全に貫くのは現実的には無理である。郷に入っては郷に従えなので、「Food Doctor Diet Club」という本を買ってみた。10人の肥満の人が4週間、Food DoctorことIan Marberの作ったレシピに従って、ダイエットするのである。4週間分のレシピと、1週間ごとのそれぞれの体験談が載っている。ちなみに、体験談はまったく役に立たない。なにしろ10人の体重は76kgから139kgである。次元が違う。レシピの一部は役に立ちそうではあるが、レシピどおりの量で食べていたら、私の体重はかえって増えるかもしれない。

 このマイブーム、ブームで終わらせず、定着させたい。両親と暮らしていた頃、スーパー主婦の母は、食事もおやつも手作りがほとんであった。また、常々、適当な量、適当な組み合わせの食について語ってくれた。(彼女がスーパー主婦だったため、私の家事能力を向上させる機会が奪われたというのが、いつもの言い訳である。)私に必要な「普通の食事」は、私の体にしみ込んでいるはずである。これを多少イギリス式にアレンジし、私なりの「いい食べかた」を続けることができて、結果としておばさんへの進化を遅らせることができれば、言うことなしである。

Thursday, April 12, 2007

Girls' Night Out

 ゆうべは、4人(私も含む)の女性コンサルタントのお食事会に出かけた。題して「Girls' Night Out」。4人とも、 SLaMの各区のレジデンシャル・ケアを担当するチーム(placement team)のコンサルタントである。

 SLaMの4つの区の中では、サザック区が一番早く、5年前にplacement teamを立ち上げた。Mは設立時からのコンサルタントである。続いて、ランベス区が1年ちょっと前、クロイドン区が去年の9月に専門チームを立ち上げた。ルイシャム区は現在立ち上げの準備中で、Sがローカム・コンサルタントとして仕事をしている。

 食事会のきっかけは、私とMのおしゃべりだった。数ヶ月前、リハビリテーション研究会で顔を合わせた際、そういえば、クロイドン区にもplacement teamができたし、ルイシャム区も立ち上げの準備をしているという話になった。ようやく全部の区にplacement teamができるわけだけれど、お互いの交流がまったくないのもおかしな話。クロイドン区のコンサルタントのSは、去年まで、Mの下の研修医だったし、私はルイシャム区のSと知り合い。わざわざ「コンタクト」するほどの手間もいらない。たまたま、全員女性。一度全員で会って情報交換するのも悪くない。

 ということで、私がオーガナイザーを買って出た。MとSに小さな子どもがいるのでお互いの都合を合わせるのが大変だったが、ようやく、お食事会にこぎつけた。

 仕事を離れたお食事会なのだけれど、仕事の話で大いに盛り上がった。それぞれがSLaMの一部であり、似たような役割のチームなのに、実際のシステムは、区ごとに驚くほどに違う。区と区の間の連携はまったくない。お互いに、他の区のチームやコンサルタントの立場に驚いたり、同情したり、助言しあったり。チームの話だけでなく、人事のゴシップもまざり、時間はあっという間に過ぎた。

 最後は、今年中にもう一度集まろうと約束し、また、近いうちに各区のデータを持ち寄って比較してみようと決めて、お開きになった。

 1回の楽しい飲み会はおそらく、何十回の会議よりも、情報交換やコミュニケーションを深めるのに役に立つ。コンサルタント同士のコミュニケーションがよければ、異なる区やサービスの間で、患者に関する問題がこじれた時に、コンサルタントたちが協力して、舞台裏で、解決にポジティヴな影響を与えることができることもある。常にサービスの責任範囲や予算等の縛りにあっていて、区と区の間の諍いに巻き込まれざるを得ないplacement teamにとって、これは、重要な点である。

 職場を離れて、ビールやワインを飲みながら、少しだけ本音を見せあうという機会の重要性は、万国共通のようである。先日、リハビリテーション精神科のコンサルタントたちの間の雰囲気が悪くなったとき、Tが提案したのは、みんなで飲みに出かけることだった。しかし、個人主義・家庭第一主義が徹底しているこの国では、コンサルタントたちが仕事のあとで気軽に連れ立って飲みに行く機会は、あまりない。研修医はもっと頻繁に飲みに行っている。コンサルタントになると、ほとんどみんな家族持ちだというのが、一番の理由なのだろうか。オーガナイザーの意気込みやメンバーの顔ぶれ次第なのだろうけれど。

Monday, April 09, 2007

イースター休暇

 6日から9日までのイースターの4連休は、好天に恵まれた。

 Rushtonという小さな村に2泊の小旅行に行ってきた。ぶらぶらと散歩するのと、本を読むだけで、2日はあっという間に過ぎてしまった。

 Rushton Villageは、ロンドンから電車で1時間ほど。Northamptonshireにある小さな村で、延々と続く丘陵、牧草を食べる牛、羊、馬といった風景が広がる、まさにイングランドの田舎である。

 村には、よく手入れされた庭つきの平屋建ての大きな家が並んでいる。ロンドンに住む人たちのセカンド・ハウスなのだそうだ。ロンドンからそれほど遠くなく、かつ、こじんまりとした雰囲気のいい村であるため、週末になると、ロンドンの人たちが「週末だけの田舎暮らし」をしに、ベンツに乗ってやってくる。(ほんとうにベンツが多かった。)

 仕事柄、平均すると月に1回は、電車に乗って田舎に出かける。それなのに、実際に田舎に滞在したのは、今回が初めてだった。鳥のさえずりと牛や羊の鳴き声を聞きながら、庭のサン・ベッドに寝転がって本を読む。いい息抜きになった。

Thursday, April 05, 2007

ジェネリック クロザピン

 以前に「クロザピン」という記事で書いたが、クロザピンは、難治性統合失調症への有効性が確認されている、唯一の抗精神病薬である。稀ではあるが致死的になりうる副作用があるため、定期的な血液検査が欠かせない。イギリスでは1992年の再認可以来、ノヴァルティス社のクロザリル(商品名)が市場を独占していた。

 2004年8月、イギリス初のジェネリック・クロザピンである、デンフリート社(Denfleet)のデンザピン(Denzapine)が認可された。認可に至るまでは、ノヴァルティス社がネガティブ・キャンペーンをして公正取引委員会の調査を受けたり、有力な医師や薬剤師がジェネリック・クロザピンの信頼性を疑問視する論文を発表したりと、賑やかだったらしい。3ヶ月遅れて、アイヴァックス社(IVAX)がザポネックス(Zaponex)を発売した。競合品の出現により、クロザピンは薬価とモニターのための費用を引き下げた。

 クロザピンは、原則として、精神科のコンサルタントしか処方できないため、薬価はすべて精神保健トラストが負担する。(他の薬の場合、病状維持のための処方が決定したら、GPに処方を戻し、費用は一次ケア・トラストが負担する。)患者1人にかかる年平均の費用(薬価およびモニター代)が約3,000ポンド(約70万円)である。

 ジェネリック・クロザピンの認可以来、クロザリルからジェネリック品に切り替えるるトラストが徐々に出始めた。主たる狙いは、支出削減である。なにしろ、300人の患者がクロザピンを服用しているとすると、年間900,000ポンド(約2億円)の負担である。

 デンフリート社とアイヴァックス社は、クロザピンの薬価を当初のクロザリルより低く設定し、さらに、クロザリルから切り替えるトラストに割引価格を提示している。(公式には、クロザリルとデンザピンの薬価は現在はまったく同じ、ザポネックスの100mg錠は他よりも約30%安い。)2004年に、クロザリルからデンザピンに切り替えたNorfolkの精神保健トラストでは、280人の患者のクロザピンに関する年間費用を、800,000ポンドから400,000ポンドへと削減できたという(Bazire & Burton. The Pharmaceutical Journal 2004; 273: 720-1)。

 SLaMでも、この3月下旬より、クロザリルからザポネックスに切り替えた。切り替え作業は昨年の秋頃から始まり、約半年がかりの作業であった。クロザピンを服用している患者、処方するコンサルタント、処方薬局、血液検査をするクリニックと、すべてが登録制であり、これをひとつの漏れもなく、ノヴァルティスのシステムからアイヴァックスのシステムに移さなければならないのだ。切り替えプロジェクトの担当者と薬剤師たちは、大変だったことと思う。

 変更から約3週間。今のところ、変更にまつわる問題は、何も報告されていない。

Sunday, April 01, 2007

衣替え

 ブログの装いをかえてみた。

 シンプルなブログ機能さえあれば十分と思ってBloggerを選んだ時には、テンプレートが充実しているかどうか、チェックすることなど考えもしなかった。Bloggerはβ版から正規版に進化したのだが、テンプレートの品揃えは進歩していない。フリーで配布されているBlogger用テンプレートにも、なかなか気に入ったものが見つからない。しかたなく、あるものから選んでcssに少し手を加えてみた。休暇中に、こんなことをやって喜んでいるのもどうかと思うが。

 このブログを書き始めてから、1年ちょっと経った。どうせ三日坊主になるのではないかと思っていたのだが、まだ続いている。その理由のひとつは、昨年のCPD (Continuing Professional Development、生涯教育)のpeer group meetingで、ブログを書いていることをカミングアウトしたことである。日本人の読者を対象に、イギリスの医療制度についてエッセイを書くためには、自分が勉強しなければいけない。これは十分に医師としての生涯学習にあたると主張したら、すんなり受け入れてもらい、ブログを書くことが私のCPDの一部として認められた。

 ブログを書くために、たくさん読んだり調べたりしたことは、私自身にとってひじょうに有意義であった。時には猫やスナフキンの話へと脱線もしているが、これまで書いてきたエッセイのうち、約3分の2がイギリスの医療制度にまつわる話題である。まだまだ書きたいことはあり、blog ideasという名前のファイルには、20以上もの項目が書き留めてある。

 衣替えを機に、コメントとトラックバックもオンにした。これまでは、時間もないし、書いている内容に自信もないことから、私が書き散らかすだけの一方通行にしておいた。2年目は、コメントによって生まれるコミュニケーションを楽しむくらいの余裕ができればいいと、思っている。