Thursday, May 04, 2006

PAMSその弐

 私のいるチームPAMS(Placement Assessment & Management Service)は、今年の1月に、ランベス区の精神保健医療サービスの組織改編(Lambeth 10-Year Review)によって生まれた新しいサービスである。

 昨日のInterface Meeting(月に1度、ランベス区の成人精神保健医療部門のコンサルタント、シニア・マネージャーたちが集まり、成人精神保健と他の分野ー司法精神医学等ーとのinterfaceについて話しあうミーティング。)は、成人精神保健とリハビリテーション精神医療のinterfaceについてがテーマだった。リハビリテーション部門に与えられた時間が90分。私も、「Placement Assessment & Management Service: The First 3 months」と題し、チームの概略と、3ヶ月の間にわかったこと、今後の課題について、20分ほど話した。

 約2ヶ月前に「PAMSその壱」を書いたときは、チームがフル稼働する前で、なにもかもが手探りの状態だったので、チームの実際の役割について、私自身もよくわからなかった。今回、トークのために突っ込んで考えざるをえなくなり、頭の中が少し整理されてきた。

 そんなわけで、PAMSその弐では、PAMSが発足するまでに至る歴史に触れることにする。

 成人の地域精神保健には大きく分けて医療ケア(clinical care)と社会福祉ケア(social care)がある。社会福祉ケアは、ベネフィット(公的扶助)や、利用者のニーズに応じた入居施設(レジデンシャル・ケアやナーシング・ホームなど)の選定・費用負担を含む。従来、医療ケアは、一次医療は家庭医が、二次医療は地域精神保健医療チームが担ってきた。いっぽう、社会福祉ケアは、社会福祉事務所内の成人精神保健部門が担当してきた。地域精神保健医療チームには、医師と看護師、作業療法士といった、医療従事者しかおらず、社会福祉事務所の成人精神保健部門は別にオフィスを構え、必要に応じて協力する体制をとっていた。

 しかし、精神保健では、医療と社会福祉は複雑に関連しており、時に線引きをすることが難しい。たとえば、慢性の精神疾患の患者で、疾患の経過または後遺症として日常生活機能が低下し、地域で単独で暮らすのが難しくなることがある。レジデンシャル・ケア施設に入所し、治療と社会福祉ケアを受けることになるが、どこまでが医療単独の問題で、どこからが社会福祉単独の問題なのかは、はっきりしない。

 また、組織が分かれていると、連携がとりにくく、必要なケアを提供するのに不必要に時間がかかることがままある。

 そのため、精神保健医療と社会福祉事務所の精神保健部門を統合する動きがおこり、ランベス区でも2001年に、Integrated Mental Health and Social Care Serviceとして統合され、すべての地域精神保健医療チームにソーシャル・ワーカーがチームの一員として配属されるようになった。ランベス区の5つの地域それぞれに、Assessment and Treatment TeamとCase Management Teamの2つのチームがあり、それぞれにチーム・リーダーがいるが、どちらかは看護師出身者で、もう一方はソーシャル・ワーカー出身者とすることも決められた。この結果、社会福祉ケアが地域精神保健医療チームの仕事の一部となり、チームとしてより総合的なケアを提供できるようになった。

 しかし、問題は残った。ランベス区のストレッタム(Streatham)地域には、歴史的に、レジデンシャル・ケア施設が固まっていた。また、ランベス区は、イングランドの中でも、もっとも多いレジデンシャル・ケアの入居者数を抱えていた。しかし、忙しい地域精神保健医療チームの日常業務の中で、施設に入居している患者は、とりあえずケアをする人間がいるという安心感からか、優先されることが少なかった。また、ランベス区内では施設が足りず、区外の施設に頼らざるをえない場合が多い。患者がランベス区外の施設に入居した場合、医療ケアは家庭医または施設のある地域の地域精神保健医療チームに移るが、社会福祉ケアおよび費用負担はランベス区のままである。しかし、物理的な距離のために、患者の変化や、施設のケアの適切さをモニターするのは至難の業であった。

 さらに、レジデンシャル・ケア施設は決して終の住処ではなく、患者の回復やリハビリが進み、日常生活機能が向上したら、よりサポートの低い施設、または、単独での生活に移るのが望ましい。近年のリハビリテーションに対する考え方の変化や、社会福祉ケアにかかる費用負担の増加に伴い、患者に自立を促す動きが強まってきている。より自立度の高い環境へ移ることをmove-onというが、患者個々のmove-onの可能性を評価し、move-onを実現させるには、時間も人的資源も必要で、従来の地域精神保健医療チームにこの役割を担えないことが次第にはっきりしてきた。

 こういった問題を解決するために、2003年に、Streatham Hostel Teamという、レジデンシャル・ケア施設入居者を専門に担当する小さなチームが、南西チームの中に作られた。南西チームのCase Management Teamの看護師が2人兼任し、Specialist Registrarが週に1日、医療面のサポートをした。

 また、社会福祉事務所内に、Palcement Assessment and Monitoring Team (PAMT)というチームが同じく2003年に作られた。これは、ソーシャル・ワーカーと作業療法士からなり、レジデンシャル・ケア施設の監視や、入居者のmove-onを促すためのチームであった。

 折しも、ランベス区のレジデンシャル・ケア施設入居者がひじょうに多いことが、外部の監査機構からも指摘された。また、苦しい財政下、当然ながら、この費用は、社会福祉事務所に大きく負担となっており、コスト削減も火急の目標となった。

 そんな流れの中で、Lambeth 10-Year Reviewを機に、Streatham Hostel TeamとPAMTが合体し、発展する形で、PAMSが作られた。チームはSLaM(South London & Maudsley NHS Trust Lambeth Directorate)の一部であるが、マネージメント体系としては、SLaMのリハビリテーション部門と社会福祉事務所成人精神保健部門の社会福祉ケア部門の両方の管轄下にある。チームの運営予算は多くが社会福祉事務所から出ている(らしいが、本当のところ、よく知らない。)

 PAMSの主な役割は、次のようなものである。

  • レジデンシャル・ケア施設入居者のニーズがきちんと評価され、ニーズに見合った精神医療および社会福祉ケアが受けられるようにすること
  • 施設が、入居者のニーズおよび費用に見合ったサービスを提供しているか(value for money)を監視し、必要であれば改善の手助けをすること
  • 可能であれば、患者がより自立した環境へ移っていくmove-onをサポートすること
 社会福祉事務所が主導して作られたチームであり、コスト削減は、昨年度の予算の時点ですでに織り込み済みだったため、チーム発足前は、PAMSができ次第、患者のケアのレベルが落ちるのではないかとか、施設入居者をすぐに減らす方向に動くのではないかという憶測を呼び、リハビリテーション部門のコンサルタントたちは、憂慮していたそうである。

 また、move-onの言葉ばかり一人歩きし、PAMSが活動を始めれば、PAMSが患者を自立した環境へ移していってくれる、そして結果としてレジデンシャル・ケアにかかる費用を減らすことができるといった、医療・社会福祉両面からの期待も、一部にはあるようである。

 ようやくチームとして機能し始めたばかりだからまだ何とも・・・、などと外交的なコメントを繰り返しているものの、3ヶ月間たってみて、憂慮も期待もやや的外れであるというのが、私の正直な感想である。

 どのように「的外れ」であるかは、昨日のトークで「Current Issues」という副題で触れたので、次回、PAMSその参で書くことにする。

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