Sunday, May 07, 2006

Prefix & Suffix

 イギリスで手紙や書類を見ていると、人の名前のあとに、たくさん、訳の分からない略語がくっついているのを目にすることがある。また、人の名前の前にはタイトルがついている。たとえば、こういうふうになる。

  Dr David Beckham, BSc(Hons), MB BS, MSc, PhD
  Prof Sir Elton John, MB BCh, MD
 前につく(prefix)のは、タイトルで、Mr、Mrs、Ms、Miss、Dr、Profなどである。イギリスは爵位制度があるため、時にSirもある。Sirのついている人は、他のタイトル(ProfやDr)のあとにSirをつける。

 余談であるが、イギリスではアメリカほどMsは普及していない。いまだに、MissとMrsしか選べない場合がある。ヨーロッパ大陸ではさらにこの傾向は顕著で、Msって何?と聞かれたことが何度もある。

 内科系の医師はDrを使うが、外科系はMr、Mrs、Missを使う。(Msは見たことがない。)ある看護師が、せっかくドクターになるために研修して、またミスターに戻るなんて、と笑っていたことがある。

 私自身は、仕事と直接関係しない部分では、Drと呼ばれなくても気にならないので、普段はとくに聞かれないかぎりMsを選んでいた。(MissとMrsしかないほうがよっぽど腹が立つ。)そのため、私のところに届く文書はMsとDrとが混在している。ところが、先日、Ms Akanuma宛の文書ではDr Akanumaの身分証明ができないという、ばかばかしい「事件」がおこり、それ以来Drで通すことにした。

 さて、話がややこしくなるのは、名前のあとの略語(suffix)である。なかには、これでもかというように、それまで取得したすべての資格の略語をくっつける人がいるのだ。私が今まで見た中で一番たくさんついていたのは、7つである。だいたい、そんなにたくさんついていても、門外漢には、どれが何の資格の略語なのかちんぷんかんぷんで、ありがたくもなにもない。

 Wikipediaの「Academic degree」には、6項目、90あまりの学位の略語が出ている。これ以外にも、diplomaなどもあるので、実際には100以上あるのだろう。

 日本にいる頃読んだ英文の書き方の参考書には、prefixかsuffixかどちらか一方を書き、両方一緒に記載するものではないと書いてあったのだが、これはアメリカ式で、イギリス式でないのはまちがいない。

 一番高位の資格だけ書けばいいだろうにと思うのだが、お金と時間をかけてとった資格なのだろうから、そうもいかないのだろうか。

 GMC(General Medical Council)のホームページでは、登録している医師の卒業大学、GMC登録年次、登録の詳細を、オンラインで検索できる。私の学位は、「Igakushi(医学士)」と登録されている。実際は、私の医学部の卒業証書には「学位記」と一番上に書いてあり、文中に「医学の学位を授与する」とあるだけで、医学士の言葉はどこにもでてこない。GMCに登録している他の日本人医師のDegreeも医学士だったので、おそらく、GMCの手元にある、日本の厚生省の公式書類かなにかに、そのように記載されているのだろうと想像している。

 しかし、Igakushiと名前のあとにくっつけても、こちらの人には意味不明なので、私はMB BSを使っている。これは、内科系および外科系両方の医学を修めました、という資格(Medical Bachelor degree)の表記方法の「ひとつ」である。

 それでは、内科系または外科系の片方の学位しかとれない場合があるのかというと、あるのである。University of Southamptonでは、Bachelor of Medicine (BM)の学位が授与される。

 「ひとつ」と書いたのは、他にも異なる表記方法があるからである。医学部(内科系および外科系)卒業の学位は(Medica Bachelor degree)は、ラテン語では、「Medicinæ Baccleureus, Chirugiæ Baccleureus」または「Baccalaureus in Medicina et in Chirurgia」といい、前者がMB ChB、後者がMB BChirと略される。英語では「Bachelor of Medicine, Bachelor of Surgery」で、略語はBM BSとなる。ラテン語と英語が混合され、BM BChとかMB BSと表記されることもある。大学によって表記方法が異なるようである。

 同じ資格なのに表記法が違うと混乱するから統一したら、などというのは、アメリカ的、日本的な考え方で、イギリスではおそらく通用しないのだろう。

 私の英文の卒業証明書には、「Doctor of Medicine」とあるのだが、イギリスでは、Doctor of Medicine(MD)というのは、医療従事者が、主に臨床医学の分野の研究で得る学位であるため、私はあえて使っていない。

 アメリカでは、Doctor of Medicine (MD)が医学部卒業の資格である。これは、アメリカの医学部は、他の4年制学部を卒業しないと入学資格がない、大学院にあたるためである。一般に、イギリスのMB BSがアメリカのMDと同等であるという説明されることが多いが、これは必ずしも正しくないと思う。

 いずれにせよ、フル・コースの場合、私は、prefixひとつ、suffix2つとなるのだが、よっぽど偉そうに見せたり、かっこつけなければならない場合を除き、名前の前にDrをつけるだけですませている。

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