Saturday, March 18, 2006

SLaM

 SLaM(South London & Maudsley NHS Trust)は、ロンドン南西部の4つの区(ランベス、サザック、ルイシャム、クロイドン)の精神保健ならびに薬物依存医療、および隣接するベクスリ−、グレニッジ、ブロムリーの薬物依存医療を担当している。各区ごとにGeneral Managerをトップとする組織があり、区内の在住者(もう少し厳密に言うと、区内の家庭医(GP)に登録している人)を対象に、精神保健の二次医療を提供する。[ちなみに、 GPをはじめとする一次医療は、一次医療機構(Primary Care Trust, PCT)が提供する。]区ごとの組織とは別に、National Devisionがあり、こちらは、居住地に制約されず、全国からの紹介患者に対する精神保健領域の専門医療を提供している。

 医療統計からみるSLaMとは、次のようなところである。(データは2004年度年次報告書より抜粋。)

  • 2005年度の予定収入:316万ポンド(6.3億円)。(なぜ翌年度の予定収入かというと、その年の業績によって翌年度の予算が決まるからである。)
  • 診療施設:180ヶ所(3つの精神科病院および2つの一般病院内の精神科外来・病棟を含む)
  • ベッド数:1,043床
  • 職員数:4,500人
  • 対象となる地域人口:約100万人
  • のべ入院患者:年間約5,000人
  • 外来患者数:年間24,281人、ただしCPA(Care Programmed Approach)の対象となる(つまり、中長期的な精神科的治療が必要であると判断され、ケアプランに沿った治療が行われている)患者のみ。
  • 地域精神保健チームへの紹介患者数:年間11,201人
 私は日本では、研修医あるいはヒラの医員としてしか仕事をしたことがないので、マネジメント・レベルでの数字には疎い。また、日英の一般・精神科医療のシステムはまったく異なるので、多少統計を知っていたとしても、比較するのは難しかったと思う。

 もう少し一般的なSLaMのイメージは、平たく言うと次のようになると思う。

 SLaMは、モーズレー病院とベスレム病院という、長い歴史のある精神科病院をもとに、NHSの変遷とともに再編成された組織である。また、モーズレー病院に隣接して、精神科領域の研究では世界でトップクラスの精神保健研究所があるため、世界各国から臨床家や研究者が集まってきて、先駆的な基礎・臨床研究が盛んである。歴史がある組織で、実績もあるので、プライドが高い。しかし、旧い体質をひきずっている部分も多く、組織としては柔軟性に欠け、近代化の流れに追いつけない面もある。

 臨床面では、ブリクストン、カンバーウェル、ペッカムという、ロンドンの中でもEthnic minorityの割合が高く、貧困率・犯罪発生率ともに高い地域をカバーする。このような条件のところは、精神保健上の問題の生じる率も高い。よって、患者は多く、問題は複雑で、臨床家は忙しい。ちなみに、臨床が大変というのは、現在ブリクストンを担当するチームのコンサルタントの、「自分は宇宙(Universe)で一番忙しいコンサルタントだ」という言葉に表されていると思う。私も3ヶ月ブリクストンで仕事をしたことがあるが、昼食を取る時間はおろか、座る暇もないほど忙しかった。精神疾患の診断・治療だけでなく、他の要素(ホームレス、薬物依存、不法滞在、犯罪、崩壊家族等々)があるため、輪をかけて大変になるのである。

 「歴史」と「資源」を売り物にするSLaMであるが、昨今の政府によるNHS評価では、苦戦している。Healthcare Commissionによる星評価では、昨年は3つ星から2つ星へと転落した。また、先日、精神保健NHS Trustのファウンデーション・トラストの第一次申請名簿が発表されたが、それには乗り遅れてしまった。

 この先、SLaMが名誉挽回できるのか、それとも、このままずるずると評価を下げていくのか、私自身、ひじょうに興味深く見守っているところである。

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