Monday, June 19, 2006

嘘でしょう!? − 経費削減その1

 今年の初め、NHSの赤字や経費削減のニュースが出始めた頃は、よそのNHSトラストのこと、SLaM(South London & Maudsley NHS Trust)は赤字がないから大丈夫、などと呑気に構えていた。ところが4月になり、私の所属するランベスSLaMでも、経費削減の噂が聞こえてきた。4月12日のエントリーに、第一報の頃の感想を書いてある。(この感想は、今読んでみると、いささか的外れである。)

 それから2ヶ月あまり。徐々に経費削減策が具体化してくるにつれ、嘘でしょう、と思うようなことばかりである。

 まず驚いたのが、経費削減が「今年度に実施される」というところ。今年度って言ったって、もう始まってるのに・・・。年度が始まる前に立てるから「予算」と呼ぶのでしょうが。

 次に驚いたのが、削減の規模。ランベスSLaMは、今年度200万ポンド(約4億円)、来年度にさらに200万ポンド削減しなくてはならないのだ。単年度だけで、年間予算の5%である。

 さらに、もっと驚いたのが、予算が減るため、サービス内容を見直し、突貫工事でサービスを再編成しなければいけない。再編成って言ったって、つい4ヶ月前に、3年間の準備期間を経て、ランベスSLaM全体のサービス内容の見直しをして、大改革したばかりでしょうが・・・。

 ドラマ「24」も真っ青の、高速展開、ツイストである。「24」だって、1シリーズは24時間の出来事だけれども、実際に見るのには24週間かかる。サービス削減第一弾は10月1日に施行されるので、あと3ヶ月ちょっとしかないのだ。

 これまでの流れを、簡単に説明しよう。

 3月頭より、SLaMの各区の事務方は、それぞれの区のPrimary Care Trust(PCT、第一次ケアトラスト)と、2006/7年度の予算配分についての話し合いを始めた。これをService Level Agreement(SLA、サービス内容合意)という。PCTとSLaMがSLAに合意して初めて、予算が決定される。通常は、年度の始まる前、あるいは始まってすぐの時期に合意するものらしい。ところが、このSLAの最初の会議で、ランベス区とサザック区のPCTが、予算配分の減額(disinvestiment:投資減額)を通告してきた。PCTはサービスの購入者なので、サービス提供者のSLaMとしては、これしか出さないといわれれば、どうしようもない。(当然のことながら、ランベス区では、いまだにSLAの合意には至っていない。)

 当初、ランベスPCTは、直接の医療サービスに関わらないところ(インフラ設備等)をいじったり、サービスの効率をあげることで経費削減できれば、などという甘いことを考えていたらしいが、それだけで予算の5%も減らせるわけがない。数回の交渉の末、ランベスPCTは、「経費」削減ではなく、「サービス」削減であると認めざるを得なくなった。

 話し合いは、次いで、どのサービスをカットするかということに移った。ランベSLaMは、ついこないだ機構改革をしたばかりで、どのサービスも必要なものであるはずなのに、またサービス見直し・変更である。

 ここで、ランベスSLaMのエグゼクティブは、選択を迫られた。選択肢は2つ。PCTにサービス削減案をすべて委ねるか、SLaMが主導して案を作るか。

 前者を選ぶと、サービス削減の責任をすべてPCTに預けられるものの、とんでもないサービス削減案が出てこないとも限らない。いっぽう、後者をとると、SLaMがあたかもサービス削減に賛成しているかのようにとられかねない。(もともと、サービス削減はPCTが決めたことで、SLaMとしては、受け入れざるを得ないから受け入れるだけで、賛成しているわけではない。)意見は割れたが、結局、サービス削減に伴うリスクをPCTが担うという条件付きで、SLaMが、臨床への影響が最小限になるようなサービス削減案を作り、PCTに提案することになった。(もっとも、サービス削減に伴うリスクを誰が負うかという問題については、PCTが責任回避を続けているため、いまだ合意には至っていない。)

 とはいっても、「第一弾」のサービス削減案は、10月に施行しなければいけない。そこで、PCTが3月に出した第一案を叩き台にして、2ヶ月ちょっとの話し合いの末、最終案がまとまった。(最終案の内容については、次回に詳しく書きます。)来年度の「第二弾」については、SLaMが案を出すことになっている。

 精神保健サービス全体に対する影響を最小限に抑える案とはいえ、現実には、かなりの影響が出ることは避けられそうもない。それでも一般成人精神科では75万ポンドしか減らせない。

 四苦八苦したにもかかわらず、今年度200万ポンド削減するための妙案はひねり出せず、なんとかランベスSLaMで合わせて100万ポンドの削減をし、足りない100万ポンドを、他の区も含めたSLaM全体の資本金から補填することになった。この100万ポンドは来年度返却しなければならず、さらに、通常赤字の分を入れて、来年度は、ランベスSLaMは400万ポンド削減しなくてはならないことになってしまった。

 今のところ、PCTもSLaMも、人員削減をせずに経費削減を進める方針で一致している。空席になっていたポストをカットしたものの、実際の人員削減は、いまのところゼロである。10月のサービス再編成ではじき出されるスタッフは、空いているポストに配置転換されることになっている。

 しかし、来年度に関しては、まったく予断を許さない。サービス再編成・削減のみで400万ポンド削減できなければ、当然、人員削減を視野に入れなければいけなくなる。

 そんなわけで、4月以降、どこの会議でも、主たる話題は経費削減である。

 先日のコンサルタントとシニア・マネージャーの月例会議では、4つの小グループに分かれて、一般成人精神科の管轄の4部門(急性期病棟・Assessment & Treatment Team、Recovery & Support Team、リハビリテーション)でそれぞれ50万ポンド削減するための「革新的な」変革案を考える、というグループワークをした。

 さて、経費・サービス削減やむなしの状況なのだが、「なぜ」、このような多額の経費削減を、待ったなしで行わなければいけないのだろうか。

 これまでニュースで読んできたのは、総合病院を中心にした急性疾患を担当するNHSのacute hospital Trust(病院トラスト)が、累積した赤字を減らすために、経費削減するというものだった。

 SLaMは病院トラストではなく、精神保健トラストである。それに、この2-3年間は、SLaMは収支をとんとんにして赤字を出していない。もし、病院トラストの赤字の補填のために精神保健トラストの予算が犠牲にされるとしたら不公平な話だと、やや憤慨したりもした。

 経費削減、サービス削減の話を聞きながらも、この「なぜ」はいつもつきまとっていた。私が新参者だからわからないのかと思って周りに聞いても、みな、よくわからないようだった。わからないまま、経費削減ありきで話をしている。わからないことを不安に思わないように見えるのは、もっと不思議だった。

 それが、最近になってようやく、経費削減の裏事情が少し見えてきた。長くなるので、続きは次回に。

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