Friday, August 18, 2006

医師登録証明書

 今日、General Medical Council (GMC) から、年間登録証明書(Annual Registration Certificate)が届いた。これがあれば、この先1年、また医師として仕事ができる。と言えば聞こえはいいが、登録料290ポンドの領収書でもある。

 GMCに登録しているかぎり、65歳の誕生日まで、この年間登録料を払い続けることになる。65歳以降は、登録料は免除になる。これは、定年の65歳以降は医師賠償保険の加入基準が厳しくなり、臨床を続ける人がものすごく少なくなるためである。また、医師の年収が19,700ポンド以下の場合は、登録料が半額免除になる。

 いずれにしても、イギリスで医者として仕事をするのは、いろいろと物入りなのである。

 この証明書には、A4サイズのポスターが同封されていた。「医師の義務(The Duties of a Doctor)」のポスターである。少し長くなるが、全訳してみる。(原文はGMCのウェブサイトに載っています。)


「GMCに登録している医師の義務」

 患者は自分たちの生命や福祉について、医師を信頼することができなければいけない。その信頼を正当なものとするために、医師は高い臨床およびケアの水準を維持し、人命に対する尊敬を示す義務がある。

 とりわけ、医師たちは

  • 患者のケアを第一に考えなければいけない。
  • どの患者にも、礼儀正しく思いやりをもって接しなければならない。
  • 患者の尊厳とプライヴァシーを尊重しなければならない。
  • 患者の訴えを聞き、彼らの意見を尊重しなくてはいけない。
  • 患者が理解できるような方法で、情報を提供しなくればならない。
  • 患者には、自らのケアを決めるにあたり、十分に関わる権利があることを尊重しなければならない。
  • 医師は最新の専門知識と技術を保たなければならない。
  • 医師自身の専門技量の限界を認識しなければならない。
  • 正直かつ誠実であらなければならない。
  • 個人の秘匿情報を尊重し保護しなければならない。
  • 医師の個人としての信念が、患者の治療に不利益となるようなことが絶対にあってはならない。
  • もし医師自身あるいは同僚が臨床にふさわしくないと思われる場合、患者がリスクにさらされることがないよう、迅速に行動しなければならない。
  • 医師としての立場を悪用することを避けなければならない。
  • 患者のために最善となるよう、同僚と協力して働かなくてはならない。
 これらすべての点において、医師は、患者や同僚を不等に差別することがあってはならない。そして、医師は、常に、自身の行為を弁明できるような心構えがなくてはならない。


 この14項目の義務、医師の責務全般に渡っている。一部は精神論に聞こえなくもないのだが、GMCのFit To Practice Panel(FPP、医師適性評価委員会)で、適性審査の判断基準として機能している。

 中でも一番精神論的なのは「正直かつ誠実」の項目だと思うのだが、これもFPPによく出てくる。

 たとえば、Dr Nのケース。マレーシア出身の男性で、イギリスの医学部を卒業後、イギリスで研修をしていた。研修医のポストに応募するにあたり、彼は、履歴書で成績を実際よりもずっとよかったように偽造した。業績も偽り、他人の論文を自分のものとして引用したり、添付の別刷りPDFを改竄し、自分の名前を入れたりした。このように、改竄の内容や方法が悪質なうえ、履歴書の改竄が発覚しそうになった際に嘘を並べたたこと、その後も偽造した履歴書を使い続けたこと、上司に事情を聞かれた際に、ことの重要さへの洞察が甘く、反省の色がなかったことも委員会で証言された。これらは、職業上の違法行為(Professional misconduct)にあたるとされ、「職業人として不適切(unprofessional)」で「誤解を誘導(misleading)」し、かつ「不正直(dishonest)」であると判断された。

 とくに、手口の悪質さや洞察・反省のなさから、Dr Nの「不正直さ」が医師の義務に反すると強調されている。Dr Nは、履歴書の改竄は、なかなかポストがとれず、精神的に追いつめられた上でのことだと弁明したが、これに対して委員会は、「ストレスがあるから不正直になるというのであれば、医師としての今後のキャリアの上で、ストレスにさらされた場合、同様の不正直な行為を繰り返す危険が高い。」と断じている。結果として、Dr Nの名前はGMC登録から抹消された。

 ポスターが同封されてきたということは、これをオフィスに貼って、毎日眺めて、医師としての心構えを忘れないようにしなさいってことなんだろうか。それとも、少なくとも年に一度くらいはおさらいしてね、ということかしら。

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