Sunday, August 13, 2006

オン・コールその3−初オン・コール顛末記

 当初のオン・コール予定表では、私の初めてのオン・コールは11月の予定だった。しかし、リハビリテーション部門の同僚のTが、急遽旅行の予定が入ったとかで、交替した。Tの都合で交替したので、Tが交換台に連絡してくれた。(オン・コール予定表と各自の連絡先は、交換台が把握している。)

 臨床部長のAに、初めてのオン・コールの前には一度連絡するように言われていたので、10日ほど前にメールを送り、何か気をつけることがあるかどうか聞いてみたところ、「普通はものすごく静かで、オン・コールのSHOが出てこないという時くらいしか呼ばれない」という、そっけない返事が返ってきた。SHOが出てこないってどういう意味かしら、とやや引っかかるものを感じたが、「ものすごく静か」というところが印象に残ったせいか、それ以外はすぐに忘れてしまった。

 7月11日月曜日、オン・コールの週が始まった。月曜の夜は、ベッドの脇に携帯電話が手の届く範囲にあるのを何度も確認してから電気を消した。火曜の夜は、多少不安を感じながらも、映画を見に行ったのだが(!?)、通路側の席をとり、消音にした携帯電話を握りしめながら映画を見ていた。

 でも、電話は来ない。

 水曜日の朝。SHOからではなく、Tから電話が来た。「オン・コール交替したよね。」

 なんと、前日の夜、Tがオペラに行く途中に電話があったという。Tが連絡したにもかかわらず、交換台の不備で、当直表は変更されていなかったという。どうりで私の電話が鳴らないわけである。幸い、電話の内容はたいした用事ではなく、Tは無事にオペラを聴くことができたのだが、ちょっと気の毒だった。

 丸2日間、得をしてしまったのだが、気分を新たに、水曜日からオン・コール本番。ひきつづき、漠然とした不安と緊張を感じながら過ごしていたが、電話は来ない。

 金曜の夕方5時15分。オフィスでそろそろ帰ろうかと片付けをはじめたところに携帯が鳴った。St Thomas'病院の日勤のDuty SHOからで、「オン・コールのコンサルタントと話したい」という。どこかにオン・コール表があるんだろうから、名前で呼んでほしいとふと思ったが、そんなことは口にせず、用件を尋ねると、Extended HourのSHOが来ないという。聞けば、偶然が重なって、St Thomas’病院のExtended hourを担当するSHOが、同じ日にLambeth病院の夜勤をしなくてはいけなくなってしまった。交替できる人を探したものの結局どうにもならず、そのSHOが両方とも掛けもちをすることになった。昼間に電話で確認したときは、大丈夫と言っていたにもかかわらず、まだ現れない。自分は用事があって、あと15分ほどしか待てない。オン・コールのSpRの携帯電話にもつながらないという。

 ふいに、Aからのメールを思い出した。SHOが出てこないってこういうことなのか、と気がついたが、今さら遅い。出てこなかったら どうするかは聞いていなかった。

 数秒で最初のショックから回復し、言葉を探す。わからなければ聞くしかない。「こんなの初めてなんだけど(オン・コール自体初めてだから、当然なんだけどね。)、こんなとき、普段はどうしてるの?」と尋ねると、「臨時でカバーしてくれる人を探すか、医師派遣会社に連絡して誰かよこしてもらうか、オン・コールのコンサルタントが決めます。」あっそう。また言葉に詰まる。気の利くことに、SHOのほうが「誰か残っているかみてみましょうか。」と助け舟を出してくれ、そうしてもらうことにして、いったん電話を切った。

 頭の中はパニック状態で、最悪の事態が頭をよぎる。派遣会社に連絡するたって、連絡先知らないし。

 問題が大きくなる前に情報収集したほうがよさそうと判断し、迷わずAに電話する。「SHOの携帯と自宅に電話した?交換台が連絡先を持っているはずだから、あなた自身で電話してみて。それでつかまらなかったら、誰か残ってもいいという人を見つけて、その分の残業代を払うことにするから。もしかしたら(SHOは)移動の最中で、地下鉄の中で携帯がつながらないだけかもしれない。」と、なんだかのんびりした返事が返ってきた。

 Aとの電話が終わりかけの頃、私の携帯電話がまた鳴った。さきほどのSHO。「当のSHOがやっと到着しました!」やれやれ、一件落着。

 この電話が私の初めてのオン・コールでの唯一の仕事だった。

 コンサルタントのオン・コール手当は、週約400ポンドほどである。いっぽう、通常の頻度でオン・コールをすると、SHOもSpRも、基本給が40%増しになる。そのため、3-4年目のSpRのほうが1年目のコンサルタントの給料よりも高いという、逆転現象がおこるそうである。こんなに静かなんだから、文句もいえないか。

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