Sunday, April 27, 2008

分家

 先日来、イギリスでの医師の刑事訴追の可能性について調べているのですが、なかなか資料が手に入らず手間取っていました。もたもたしている間に、他に書きたいことが出てきてしまいます。それがタンゴのことであったりすると、医学論文の引用記事の次に、突然タンゴの靴の写真が出てきてしまうことになり、刑事訴追の記事のつづきを期待してくださった人にとってみれば、あれっ?ということになります。反対に、Gyrotonicやタンゴを通じて知り合った人たちにとっては、medical manslaughterは、必ずしも身近な話題ではないはずです。

 来てくださる方が読みやすく、私自身が書き続けやすい環境を作るにはどうしたらいいだろうと考えて、ブログを棲み分けするのがよさそうだと思うにいたり、ふたつめのブログを立ち上げました。今後は、医療関係の記事をこちらの「a legal alien in london」に、Gyrotonicとタンゴに関しては新しいブログ「twisting and turning」に載せていくことにします。それ以外の記事は、まあ、適当にどちらかに載せます。これまでの記事は、こちらにそのまま残しておきます。

 右側のプロファイルの下にも、リンクを載せておきます。よろしかったら、一度お立ち寄りください。

Tuesday, April 22, 2008

killer shoes

 昨日、新しいタンゴ・シューズの履き初めをした。

 ブエノスアイレスにあるタンゴシューズ専門店のcomme il fautのもので、黒のベルベット地に淡いピンクのリボンがついた、9cmのピンヒール。

 まだミロンガ(タンゴのサロン)デビューを果たせるほど上達していないので、これはもちろんお稽古用である。こんな素敵な靴をもったいないと思うが、サイズが小さいために7種類しか選択肢のない中で、ぴったり合うのがこれしかなかったのだ。

 9cmもあるピンヒールで果たしてまっすぐ立てるのかどうか、ひじょうに不安だった。しかし、さすがcomme il faut。ピンヒールと思えないほど重心が安定している。足底もしっかり支えてくれるので、今朝起きた時、足の裏が痛むこともなかった。

 あとは、練習に励むのみ!いい靴を履いて練習すると上達が早いだろうし。

Thursday, April 17, 2008

医師の刑事訴追

 イギリスでは、医療関連死亡事故の当事者であった医師が刑事罰に問われることがあるか。答えはイエスである。

 日本でいう「業務上過失致死」と同義のイギリスの法律用語は見つからないのだが、私のあやふやな法律の知識とにわか勉強によると、gross negligence manslaughterが同じような意味合いになる。また、医療関連死という面を強調して「medical manslaughter」と呼ばれることもあるようである。

 1970年代と80年代には、4人の医師がmanslaughter(故殺罪)で起訴されている。90年代にはこれが一気に17人に増加した(Ferner 2000)。2001-2002年の2年間で、さらに6人の医師が起訴された(Dyer 2002)。1990年に、Crown Prosecution Serviceが職務上のnegligenceによる死亡例をmanslaughterで訴追することを決定したため、主に医師が影響を受け、訴追数が増加したという(Dyer 2002)。

 しかし、起訴数が増えても、有罪になる医師の割合はあまり変わっていない。1795年から2005年までの間に、故殺罪で起訴された医師は85人(75件)いた(Ferner & McDowell, 2006)。有罪となったのは、1795-1899年は28%、1900-2005年は30%であった。これは、一般の故殺罪の有罪率と比べると、圧倒的に低い。2001年には、故殺罪による起訴278件のうち238件(86%)が有罪になっている。(Dyer 2002)。(まだ、つづく)

  • Dyer C. Doctors face trial for manslaughter as criminal charges against doctors continue to rise. BMJ 2002; 325: 63.
  • Ferner RE. Medication errors that have led to manslaughter charges. BMJ 2000; 321: 1212-1216.
  • Ferner & McDowell. Doctors charged with manslaughter in the course of medical practice, 1795-2005: a literature review. J R Soc Med 2006; 99: 309-314.

Wednesday, April 16, 2008

医療事故の原因究明と罰則

 ここのところ、法律に頭を悩ませることが多い。また、事故調第三次試案に関するあちこちのブログを読んでいて、医師もlegal mind(またはlegal literacy)が必要だとつくづく感じる。ふと、イギリスの事故調と刑事訴追とはどういう風につながっているのだろうかと思い、検索してみた。

 原因究明に関する制度に関しては、以前に「NHS苦情処理制度」、「失敗から学ぼう」の記事に書いている。記事を書いてから2年近く経っているが、大きな制度改訂はないので、今でもこのような流れで調査がなされているはずである。

 明らかなミスによる事故と判断された場合、当事者である医師は、研修や再教育、資格停止または剥奪等の専門職業人としてのペナルティや、停職または解雇等の雇用上のペナルティを受ける。さらに、外国籍の医師で、仕事のポストと滞在資格がリンクしている場合は、国外退去というペナルティもあり得る。

 それでも、医療事故で刑事責任を問われることは、Harold Shipmanなどの悪質な場合をのぞけばありえない、と思っていた。実際に、以前にも「誠実な医療行為の結果をもとに刑事告訴されることはありえない環境」と書いた。

 しかし、本当にそうなのだろうかと考えてみたらよくわからなくなってきたので、調べてみることにした。(つづく)

Monday, April 14, 2008

Mental Capacity Act 2005

 今日は、丸1日缶詰で、Mental Capacity Act 2005(MCA、成年後見法)の講習を受けてきた。MCAは昨年の10月からすでに施行されているのだが、細かい用語の変更等があり、なかなか頭の中が整理できず、実践上、立ち往生することが多々あった。今日の講習でようやく、これまでの種々の疑問が解決され、臨床で正しく運用できそうな自信がついてきた。

 精神科の日常臨床では、法律とのつき合いは切っても切れない。Mental Health Act(精神保健法)がまず頭に浮かぶが、MCAが必要な場面にもしょっちゅう遭遇する。とくに、リエゾンやリハビリテーションの分野では、必要になることが多いと思う。

 MCAの施行以前は、財産に関する後見制度はあったが、社会福祉や医療に関する自己決定権については、common lawに基づいておこなわれていた。MCAのもとに、意思決定能力の定義やその(司法的な)評価の方法、適応範囲などが包括的に明文化された。また、Mental Health Actとの使い分けについても、はっきりと示された。

 MCAの基本5原則は下記のとおりである。

  • Presumption of capacity(意思決定能力は、否定されないかぎり、存在すると推定する)
  • Maximising decision-making capacity(自己決定ができるよう可能なかぎりサポートする)
  • The freedom to make unwise decisions(非合理的な決定をする自由を有する)
  • Best interests(受益者の最大限の利益にかなう決定をおこなう)
  • The least restrictive alternative(受益者の権利や自由の制約が最小限にとどまる方法を選択する)

 common lawとgood medical practice、基本的人権を念頭におけば常識と思われる事柄が並んでいるが、実際の医療や福祉、財産の保護等の面ではなかなかそのとおりの保護がおこなわれてこなかったことを考えると、こうして並べることに意味があるということはうなづける。

 施行後半年もたっているのに自信がないとはけしからんと言われそうだが、新しい法律ができても、現場でのアセスメントや対応は、これまでおこなってきたことと基本的に変わらないため、多少頭の中が混乱していてもあまり不自由しなかったとも言える。

 それにしても、法律用語はほんとうに厄介である。なにしろイギリスの法体系についての知識が怪しい上に、法律用語は苦手なので、あわててコンピュータに向かって基本的知識の復習をしなければいけないことなど、しょっちゅうである。(インターネットがなかったら、この検索ひとつとっても、 私の生活は、ものすごく大変なものになっていたに違いない。)

 ちなみに、10月に新しいMental Health Act 2007(精神保健法)の施行が控えており、こちらのほうは大幅なシステムの変更があるため、頭の切り替えだけでなく、精神科コンサルタントは再講習が必要になる。

Monday, April 07, 2008

宣伝活動

 私が勤務する、South London & Maudsley NHS Foundation Trust(略してSLaM)が、広報用のショート・フィルム「Maudsley's Mission - The Future in Mind」をYouTubeにアップした。

 ひじょうにprofessionalに作られたフィルムで、研究と臨床をうまくリンクさせて、最先端の治療をおこなっている、素晴らしい病院に見える。

 政府が、患者に「選択」の自由を与える政策をとり、Foundation Trustとして、Trust独自で収入を得る道を探ることが可能なcorporate NHSにとっては、こういった広報も、大切な「企業」活動のひとつになっていくのであろう。

 SLaMでは、今後もこういったマルチ・メディアの広報をすすめていく方針だそうである。SLaMのフィルム・カタログはこちらからどうぞ。

Tuesday, April 01, 2008

エープリル・フール前日

 昨日の夜8時頃、1通のメールが届いた。

…we are pleased to inform you that we have accepted it for publication in Journal of xxx…

 そう、先日論文を再々投稿した学術雑誌の編集長から、論文を受理しましたというメールであった。

 やった!と喜んだが、すぐに「まだ4月1日になってないよね」と思ってしまったのは、この論文のここまでの道のりを振り返れば、無理もないことなのだ。側頭葉てんかん患者における記憶検査と脳画像検査に関する研究の論文なのだが、最初の原稿を書き始めてから足掛け5年、あちこちの雑誌に嫌われ続けてきた。不受理の返事を受け取るたび、この仕事は日の目を見ないのではないかと思うことがしばしばであった。それでもここまでしぶとく粘ってきたのではあるが。

 今回の雑誌も、すべり出しは最悪だった。投稿したのが昨年の4月下旬。途中、査読者の選定に手間取ったとかで、最初の査読結果が届いたのが5ヶ月後の9月。4年かかって初めて「不受理」と書いていない返事がきたと喜んだのも束の間、届いた査読者(2人)からのコメントを見て、言葉を失った。査読者1からのコメントが60点ある。(ちなみに、査読者2からは6点。)「こんなにコメント書いたら、これだけで総説が書けるでしょう」と突っ込みを入れながらも、頭をひねりにひねってコメントに応え、なんとか再投稿にこぎ着けた。ところが、さらにコメント付きで帰ってきて(査読者1からのコメントは合わせて64点になった)、追加の解析をやって再々投稿。

 もともと長い論文だったのが、コメントに添って改良を加えたらさらに長くなり、最終稿は引用文献が84にのぼる、59ページ(本文だけだと29ページ−原稿用紙ではありませんが)の大論文になってしまった。 改訂作業中、「こんな長い論文、誰が読むのだろうか」と共著者とぼやいたが、 64もコメントをくれた査読者は隅から隅まで読んでくれたのだから、最低1人はきちんと読んでくれたのはまちがいない。

 この「大」論文が5年がかりで受理にこぎ着けた一方で、去年の夏にあまり苦労もせずに書いた論文は、マイナーな訂正を加えただけで受理され、すでに雑誌のwebsite上で公開されている。論文のテーマも雑誌の種類もまったく異なるので、単純に比べられるものではないとはわかっているのだが。それでも、今年はこれで2つめの受理なので、ここまではなかなかいいペースできている。

 おっと、今日は4月1日なので、やたらなことは口にしないほうがいいのかもしれない。