土曜の朝の訪問者
朝10時半、フラットのドアを軽くノックする音がした。ドアを少しだけ開けてのぞくと、工具を腰に下げたおじさんが立っている。「Coralから頼まれて来たんだけれど、お宅のキッチンの窓から外に出させてほしい」と言う。
昨夜帰宅すると、フラットの入り口に手書きのメモが残っていた。「Coralに連絡ください。あなたと話す必要があります」とある。Coralというのは、フラットのある建物の隣にある、スポーツ専門のブックメーカーである。私は賭け事は弱いので、これまでに足を踏み入れたこともない。何ごとかと思いすぐに降りてみると、店は閉まっていて、「システムの不都合で早じまいします」と貼り紙がしてあった。
で、今日。エンジニアのおじさんに聞くと、昨日、お店で突然シグナルが入らなくなり、復旧作業のため、ケーブルとディッシュを点検しているとのこと。なぜかディッシュはうちのフラットの「バルコニー」の端に取りつけてあり、うちのキッチンからしかアクセスできない。「なにしろ今日は大事な日だから、 (システムがダウンして)Coralはパニックになっている」と、笑う。あ、そうか。今日は Grand Nationalの最終日であった。(Grand Nationalは、リバプール郊外のAintreeで行われる、イギリス最大規模の障害競馬。)
何せ土曜日の午前中。パジャマのままでのんびりしていたところである。でも、うちのキッチンが唯一のアクセスなら、しかたがない。外で待ってもらう間に着替えて、入り口を開けた。我が家は土足厳禁なので、靴を脱いでもらいたいと伝えると、おじさんは気持ちよく聞いてくれ、靴を手にバルコニーへ。
バルコニーと言っても、人間1人分の幅しかなく、ふだんは鳩がうろうろしている程度で、私はこれまで、家の前を通るチャイニーズ・ニューイヤーのドラゴンの写真を撮るのに一度出たことがあるだけである。キッチンの小さな窓から這い出て(この窓も、腹這いにならないと通れない)作業すること15分ほど。おじさんはチェックを終えて戻ってきた。ディッシュは問題なかったという。
もし必要があったら、また来るかもしれないと言って、おじさんは帰っていった。律儀にも、バルコニーからキッチンに戻る時はもう一度靴を脱いでくれる、気の利くおじさんだった。
その後、何の連絡もないが、システムは復活したのだろうか。
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