Smoke-free policy
6月1日より、ランベス区SLaM全部門で、Smoke-free policy(禁煙令 -「令」などと言うと、生類憐みの令のようなものを連想してしまう・・・)が施行された。建物内はこれまでも原則的に禁煙だったが、一部の施設内には喫煙所が設けられていた。今回の禁煙令では、禁煙の場所が建物の中だけでなく、戸外や、NHSの建物を離れた地域(コミュニティ)にも広げられた。
イングランドでは、2007年夏より、すべての公共の場で喫煙が禁止される予定である(Smoking ban)。それに先がけて、政府機関とNHSでは、今年中に完全な禁煙令が実施されることになっている。ランベス区での禁煙令は、その一環である。
ランベス区SLaMの建物内、および、建物の入り口から15メートル以内は、すべて禁煙となった。ランベス区SLaMが所有する車内も禁煙になる。対象は、NHS職員だけでなく、敷地内に入った他の会社の契約社員(工事やメンテナンスの人たち)や、訪問者、患者もすべて含まれる。
建物の入り口から15メートル以上離れれば、規則上は喫煙してもいいのだが、戸外に設けられた、ドアのついた喫煙所(日本の駅にある喫煙所を小さくしたようなもの)で煙草を吸うのが望ましいとされている。この喫煙所は、「可能なかぎり魅力のないように(as unattractive as possible)」して、長居したくなくなるようにしなければならない。近い将来、喫煙所をのぞいて、NHSの所有する敷地内全域が禁煙になる可能性がかなり高い。
この禁煙令の一番の目的は、NHSが喫煙および受動喫煙の害を認め、医療保健機関として、率先してその害を排除し、禁煙を促進することにある。スタッフは、NHSの姿勢を示すために、勤務時間内は、患者や訪問者が見える場所では喫煙しないように指導されている。また、勤務時間内に、ちょっと一服という「喫煙休憩(そんなもの、あったのかしら?)」はいっさい許されず、喫煙したければ、通常の休憩時間を割かなければいけないことになっている。
私のチームには結構喫煙者がいる。彼らにとって幸運なことに、うちのチーム・ベースに患者が来るのは、クロザピンとデポのクリニックがある時に限られているし、建物の裏にある駐車場は、表からは見えず、外来者は入ってこない。運のいいことに、非常口を出るとすぐ駐車場である。そのため、彼らは、ドアから10数メートル余計に離れなければならないものの、これまでとほとんど変わらずに煙草を吸える。今のところは、だが。
この禁煙令にも例外があって、精神科の入院患者や、(NHSが所有する)滞在型施設の入居者に限っては、建物内に設けられた喫煙室で喫煙してもいいことになっている。強制入院等で、戸外の喫煙所に自由に行けないというのが、その理由である。観察が必要な患者が喫煙する場合は、喫煙室の外から観察できるような方策がとられることになっている。喫煙室にいる時間は可能なかぎり短くし、喫煙以外の行為(!)はしてはいけない。
地域精神医療の現場では、患者の家庭を訪問することが多い。もし、訪問するスタッフが非喫煙者で、患者が喫煙者の場合、スタッフは患者に対して、訪問の間は喫煙しないように依頼してもよい。もし患者がどうしても喫煙をやめてくれず、受動喫煙がひどくて健康被害の懸念がある場合、スタッフは訪問を切り上げていいことになっている。そして、すぐに上司に報告し、善後策を検討する必要がある。(善後策って何だろう、といつも思うのだが。患者が喫煙者の場合、担当するスタッフも喫煙者にするのかしら。)
ちなみに、精神科の患者に対する喫煙の規制については、医療者にも賛否両論がある。規制に賛成する人たちは、精神科の患者を特別扱いして、禁煙を促進しないのは、他科の患者が得られる医療上の利益を与えないことになり、不公平であるという。いっぽう、反対する人たちは、管理上の問題を指摘する。患者が看護スタッフと衝突することが一番多いのは煙草の要求をめぐってであり、吸いたい時に煙草を吸えないと不満を持ち、スタッフに対する暴言・暴力につながることが多く、対応するのが大変になるからである。また、喫煙中は、患者はスタッフとリラックスした会話に応じることが多く、ラポールを作ることができるため、これを規制することにより、治療的な人間関係の構築を得る機会が失われる点も理由に挙げられている。
この禁煙令の一番の目的は、喫煙による健康被害を食い止めることにあるので、禁煙令の実施と合わせて、患者やスタッフが禁煙するための援助策も導入されている。患者のための禁煙クリニックは、家庭医にも、SLaMにも以前からあったが、スタッフのための禁煙クリニックも始まっている。ニコチン依存の程度に応じて、禁煙カウンセリングや禁煙指導が勤務時間内に受けられる。もっとも、現在進行中の経費削減のあおりで、この禁煙クリニックの存続が危ないというのも、情けない話である。
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