Thursday, April 06, 2006

Doctors for Reform

 4月3日、Doctors for Reformという、NHSに籍を置く医師たちのグループが、「NHSは、現行の税金のみですべて賄う制度では、いずれ維持できなくなる。ドイツやフランスが採用している、社会保険制度も含め、他の財源の導入も検討するべきである。」とする、三大政党(労働党、保守党、自由民主党)あての公開書簡を発表した。

 この公開書簡によると、NHS自体、50年以上も前に作られたもので、近年の医学の急速な進歩と、それに伴うコストの増加には、同様の制度のままでは対応しきれない、進歩に伴い患者の医療に対する期待度も高まるが、現行制度のままでは到底その期待に応えることはできない、と述べている。また、いまやイギリスの医療制度への支出額はヨーロッパの平均支出額を上回ったが、医療レベルはまだまだヨーロッパの「先進国」に遠く及ばないとし、いくつかの例を挙げ、制度の見直しを求めている。

 これに対し、ヒューイット厚生大臣はすぐに翌日のガーディアン紙にて反論した。"Our NHS will remain tax-funded"と題した短い手紙の中で、これまでの改革で、医療スタッフの数も増え、待機時間も減り、云々の従来の主張を繰り返し、政府としては現行の税金による制度を変えるつもりはまったくない、と結んでいる。しかし、この反論、公開書簡で批判されている、イギリスの医療レベルの低さに関しては、まったくコメントしていない。また、"…, our tax-funded system, where care is free to all at the point of delivery, remains the envy of much of the world.(我々の、すべての医療を無料で供給する、税金による(NHS)制度は、世界でも依然として羨望の的である。) "という一文には、失礼ながら、笑ってしまった。

 さて、このDoctors for Reformというグループは、約900人のNHSで働く医師から構成され、政党の議員候補者であったり、医学会の役付きであったりという、大物も含まれている。三大政党いずれの支持者も含まれ、各政党の方針には影響されていないと宣言している。BBCによると、Doctors for Reformは中道右派に色付けられているようである。

 彼らの公開書簡は、ガーディアン紙やBBCなどのいくつかのメディアには取り上げられたものの、あまり盛り上がらなかった。政府は、直後に反論したあとは無視を決め込み、他の政党やBritish Medical Associationも、現行の税金による制度を支持するというコメントを出した。

 NHSの制度がお粗末で、イギリス国民が先進国並の医療を受けられないのは、外国人医師、とくにドイツやフランス(そしてもちろん日本!)から来た医師の目には明らかである。ただ、その原因が、税金で運営されているためで、社会保険制度を導入すれは改善できるという主張には、疑問符がつく。

 それでも、このところ、ブレア首相やヒューイット厚相が「マントラ」のように唱える、NHS礼賛や、「故意に選択された」改善例の羅列にはうんざりしてたので、こういった医学会内部からの、異なる視点によって立つ主張は新鮮で、これからどうなっていくのか、興味深い。

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