Monday, May 07, 2007

口に黄金–コンサルタントのお給料のおまけ

 1948年にイギリス政府がNHSを始める際、コンサルタントたちは、国が管理する「無料」の医療制度で働くことに難色を示した。医師がいなければ医療制度は開始できない。そこで、当時の保健相Aneurin Bevanは、コンサルタントたちに高給を保証し、NHSの発足に協力するよう仕向けた。そして、Bevan自身が「(I) stuffed their mouths with gold(口に黄金を詰め込んだ–そして黙らせた)」と言ってのけたという。

 イギリスの医師はお金のためだけに働くのか。おそらく答えはノーである。2002年に新契約制度の初めの案が投票にかけられた時、コンサルタントたちは63%の反対多数で案に合意しなかった。20%の大幅昇給を蹴ったのである。背景には、新契約案により、コンサルタントが、NHSのマネージャーや政治家たちの牛耳る「組織」の一員として取り込まれることへの反感、医療のレベルを維持することよりも政府の到達目標を達成するために使われることへの拒否感、そして、マネージャーや政治家たちへの徹底した不信感があったと言われている。20%の昇給よりも、医師の主体性を維持することを選択したのである。(BMJのeditorialに考察があります。)

 私は2006年1月からコンサルタントとして仕事をしているので、新契約制度のもとで契約を結んでいる。新米なので平均給与には遠く及ばないが、日本の公立病院の勤務医と同じか、やや多い程度の額を得ている。コンサルタントは、Responsible Medical Officer(RMO、責任担当医)として、多大な責任を負う立場である。この責任の重さと、快適と感じる生活を維持できる収入、仕事以外の生活を楽しめるwork-life balanceを天秤にかけて、今の収入は、まあ、妥当なレベルかと思う。

 しかし、給料が旧契約制度並みの25%減だった場合、同じように感じるかどうかは、難しいところである。反対に、とんでもない時間(夜中や早朝)に働かなくてはいけなくなったり、政治家が設定した(量的)達成目標を果たすことを主たる業務と義務づけられたり、マネージャーの提案にノーと言えないような立場に置かれることと引き換えに、25%の昇給を提案されたら、未練なく断ると思う。

 翻って、大臣が「医師の勤務実態はたいしたことがない」と言ったどこかの国。かの国で精神科医として働いているある友人は、総額で言えば、私よりも稼いでいる。しかし、馬車馬のごとく働いている彼曰く、「時給換算したら、先生(私)の時給のほうがずっと高い」そうである。彼や、勤勉に働く日本の医師たちが、仕事の内容と責任に見合った給料を要求することができる日は、来るのであろうか。それよりもなによりも、医師にも労働基準法が適応される権利、正当な報酬を要求する権利があると、社会があたりまえに認める日は、くるのだろうか。はるか彼方から、見守っている。

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