スマップ−その2
SMAPと命名されたデータベースができるまでの経緯を、少し書いておこうと思う。
私のチームPAMS(Placement Assessment and Management Service)は、ランベス区の一次ケア・トラスト、SLaMと社会福祉事務所が、「施設」に関する諸々の問題を改善するために、予算を割いて「コミッション(委託)」したサービスである。どこもかしこも財政難、経費削減のご時世、新しく立ち上げたチームにきちんと機能してもらわなければ、投資した甲斐がないと思うのは、コミッショナーとしては当然のことであろう。PAMSの「仕事ぶり」は、厳しい監視のもとにある(ことになっている)。
と、導入はかっこいいのであるが、PAMS発足時、その「監視」を「誰」が「どのように」していくのか、なんの具体的な計画もなく、計画を立てられる人もいなかった。チームには「Information Support Assistant(ISA)」という職名のスタッフが1人いて、社会福祉事務所のBuisiness UnitのマネージャーVがスーパーバイズしている。しかし、ISAといっても特殊な技術があるわけではなく、Microsoft WordやExcelが基本レベルで使える程度である。
さかのぼること今年の3月、関係者が一同に集まって、「PAMS Tracker Meeting」なるものを開いた。PAMSのPerformance(仕事ぶり)を追いかけるので、「Tracker(追跡者)」である。しょうもなかった会議での議論は省くが、その席で、私が中心になって、財政面・臨床面両方のデータを管理して、月例レポートを作成するためのデータベースを作ることに決まった。社会福祉事務所のIT部門のDに手伝ってもらえるという見込みもあった。Dは社会福祉事務所の他のデータベースを立ち上げ維持しているので、快く引き受けてくれるだろうという読みであった。
4月初旬、Dに会い、こういうものを作りたいと相談した。Dは、「ボスと話してみるけど、たぶん、自分の6月のスケジュールに組み込めると思う」という返事をくれた。
ところが、間の悪いことに、同じ頃、社会福祉事務所では、各チームごとのデータベースを作ることは今後一切まかりならぬというお達しが出ていたのである。この10月からFrameworkという電子システムを全部署に導入するためである。
SLaMでも、すでに電子カルテを導入していて、以前から、チームごとのデータベースはいっさいサポートしないという方針が出されていた。
IT部門からサポートしてもらうという計画は、露と消えた。
私がこうして壁にぶつかっている頃、何のデータもあがってこないことに業を煮やしたボスのAは、財政面のデータだけでもと、マネージャーVにデータを集めるように指示した。当然、私は反対した。財政面のデータだけコミッショナーが見たら、経費削減を果たしていないというネガティブな面ばかり取りあげられて、臨床面でどれだけ改善しているかとか、PAMSだけで解決できない問題が山積しているという、別の側面を無視される恐れがある。それではデータを出す意味がない。
私の反対もむなしく、VはExcelでデータシートを作り、チームのメンバーに送り、毎月記入して提出するように要請した。しかし、メンバーからの反応は鈍い。誰も書類仕事なんかしているほど暇ではないし、仮に暇であったとしてもやりたくない。本来の患者に関する仕事に関係のない書類仕事が必要なときは、私が毎日嫌がらせすれすれのレベルで発破をかけてデータを集めて回っていることを、Vは知らなかったのだろう。それに、私がVの仕事を快く思っていないのもチームの面々は知っており、彼らの非協力ぶりに拍車をかけたようだった。(職権乱用かって? これがマネジメント技術というものです。)
そうこうしているうちに、7月になってしまった。何の打開策もないまま時間が過ぎていく。「コミッショナー」の思惑とはまったく別の次元で、私もリハビリテーション精神医学的興味とチームの発展のために、臨床データを取りたいと思っていた。そこで、私は自分でデータベースを書くことにした。
数年前、前のボスのデータ集めのために、Accessを使って小さなデータベースを立ち上げたことがあったので、まったくの素人ではなかった。途中、ファイルが丸ごとネットワーク・ドライブから消えて行方不明になるという事故にも見舞われたが、1ヶ月半ほどかけて、大体の形ができあがった。
この時点で、再度「PAMS Tracker Meeting」があり、私のデータベースを紹介した。必要なデータがすぐに取り出せるというところが魅力的だったのか、このデータベースはめでたく、唯一の「PAMS Tracker」用データベースに格上げされた。Vのデータシートは、ゴミ箱行きとなった。
その後、少しずつチューン・アップをし、だんだん完成に近づいていった。(なんたって、私はフル・タイムの精神科コンサルタントで、プログラマーではないので、データベースばかりに関わっているわけにはいかない。)そして昨日の午後、ようやく、もうこれでいいかな、というところまで完成し、命名に至ったわけである。
さて、今後の目標は、データ集めをこつこつと続けることと、データの範囲をさらに広げていくことである。チームの同僚たちが顔をしかめるのが、目に見えるようだ。
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