オン・コールその1−SHOシフト制
ヘルシンキから戻って次の週は、コンサルタントになって初めてのオン・コールだった。コンサルタントになる前は、スタッフ・グレードだったためにオン・コールはなかったから、正確に言えば、イギリスでの初めてのオン・コールだった。
ランベス区SLaMのコンサルタントのオン・コールは、フル・タイムの場合、1年間で計2週間(1週間のオン・コールを2回)あり、年に1度、オン・コール予定表が作られる。予定表といっても、フル・タイム・コンサルタント16人とパート・タイム用のダミー数人の名前を機械的に並べ、1週間ごとに順番に割り振っていっただけである。(パート・タイムの週は、勤務時間に応じて、12人のパート・タイムコンサルタントに日単位で割りあてられる。)なにせ1年分を一度に作るので、個人の希望を聞いたりはしない。3月に、7月からの1年分の予定表が臨床部長の秘書から送られてきただけである。都合が悪ければ、各自交渉して変更することになっている。
コンサルタントとは別に、研修医のオン・コールもある。
Senior House Officer(SHO、中期研修医)の場合、日勤(Duty)と宿直(Night Duty)の2交代シフト制をとる。2つの病院(St Thomas’病院とLambeth病院)に各勤務帯1人ずつDuty SHO(単に「Duty」と呼ばれる。)がいる。Dutyは専用ポケベル(Duty Bleep)を携帯し、呼ばれたらすぐに対応しなくてはならない。
日勤DutyのSHOは、通常の業務のかたわら、欠勤している他のSHOの代理や、臨時処方書きや採血等の雑務を一手に引き受ける。日勤は9時から17時までである。17時から夜勤帯の始まる21時までの4時間は「延長時間(Extended Hour)」と呼ばれ、Duty以外のSHOが4時間残業する。そして、21時から翌朝9時までを、宿直のSHOが引き継ぐ。宿直SHOは、宿直入り前と明け後の日勤帯は、休みになる。
Specialist Registrar(SpR、後期研修医)のオン・コールは、朝9時から翌朝9時までの日単位である。日中は通常勤務、夜は自宅待機となる。
コンサルタントもSpR同様、待機体制をとるが、週単位でまわしている。
以前は、日本の当直システムのように、SHOも、宿直に入る前と宿直あけの日も、通常業務をこなしていた。しかし、2004年8月、EU Working Time Directive(EWTD、EU労働時間に関する指令)が研修医にも適用されて以降、今のようなシフト制になった。EWTDにより、週の勤務時間が58時間以内と規定され、宿直がある場合、1日に平均8時間以上勤務することが禁止されたためである。
私と同世代のある精神科医は、SHOの時に金曜の夜から月曜の朝までDutyが続くことが時々あり、週明けには疲労と睡眠不足で頭がまったく働かなり、視界が黄色くなった(!?)と言っていた。心身の健康のためには、当然、今の制度のほうがずっと好ましい。
しかし、問題もある。シフト制のため、平日にSHOが病棟にいない状況が生じ、病棟運営に支障を来すようになった。また、個々のSHOの勤務時間が減った反面、日勤Dutyの仕事量が増え、本来の研修にしわ寄せが出るようにもなった。さらに、Dutyの仕事は応急処置・つなぎの仕事で、その後のフォロー・アップに関わることはない。こうしたつなぎ仕事をするために、本来の研修のための時間が減るのは物足りない、と不満を漏らすSHOもいる。
ランベス区SLaMでは、病棟運営への影響を最小限に留め、日勤Dutyの負担を減らし、SHOが本来の研修に割く時間を増やすため、Float Locum SHO(あえて訳すと「漂流している非常勤SHO」)と呼ばれる医師を数人雇っている。彼らは、一応病棟やチームに所属しているものの、日勤帯にSHOがいない病棟やチームがあると随時応援に行く。ほとんどが外国から来た医師で、イギリスの研修システムにもぐりこむための第一段階として利用している。
British Medical Association(BMA、英国医師会)は、今のところ、シフト制を使ってEWTDを遵守する方針でいる。しかし、今後、研修制度の変更とともに、オン・コール制度も変わっていくかもしれない。
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