月曜日から、自転車で通勤している。
先週金曜日、JCEG(Joint Commissioning Executive Group)でのトークがうまくいってほっとし、突然思い立った。自転車買おう!
もちろん、思い立つまでに多少の伏線もあった。いくら私でも、唐突にゼロから思いついたわけではない。
ロンドン市長のKen Livingstoneが混雑税を導入して以来、サイクリストの数が増えている。ロンドン市自体も、サイクリストを増やして「環境に優しい都市」にするべく、徐々にではあるが、自転車専用レーンを増やしている。
SLaMでも自転車通勤を奨励している。先日は、ランベス病院でCyclist's Breakfastというイベントがあり、自転車で来た人には、病院の食堂で朝食を無料で提供していた。
悪名高いロンドンの公共交通機関には、これまでさんざん悩まされてきた。2年前、職場がもう少し家から近かった時には、ローラーブレードで通勤しようかと、真剣に考えた。試走してみたら、家から職場までほとんどが観光地のためものすごく混雑していて、スケートでその間を縫って走るのは危険だということがわかり、残念ながら断念した。
コンサルタントの同僚にもチームの同僚にも、自転車で通勤している人が何人かいて、自転車もいいなと前々から思っていた。また、自宅からオフィスのあるチーム・ベースに行くのはバスで一本なのだが、もうひとつのオフィスがあるランベス病院や、SLaM内外の他の施設に行くことも多く、交通の便が悪いので、困っていた。
自宅の外に駐輪スペースがないため、折りたたみ自転車が唯一の選択肢である。思い立ったら止まらない。週末に自転車屋さんを4件まわり、ようやく、Bromptonの折りたたみ自転車を手に入れた。一番丈夫なロックはもちろんのこと、ヘルメット、反射テープがついたジャケット、手袋、防水ズボン、反射テープ付きの裾用ストッパーと、上から下まで一式そろえた。
そして月曜日。Transport for LondonのJourney Plannerからダウンロードしたサイクリング・マップを頼りに、初乗りをした。自転車で比較的長い距離を走るのは、学生の時以来である。自転車の乗り方は忘れないっていうからいいよね、と、初乗りでそのまま出勤してしまうところが、無謀と言えば無謀である。
サイクリングマップは、サイクリストに優しいルートを選んでいるようで、大通りをできるだけ避けて住宅地の中を通っている。何度も止まって地図を確認しながら、ようやく職場に着いた。緊張したのと、達成感のせいか、あまり疲れは感じなかった。
イギリスでは、自転車は「車」なので、歩道を走るのは法律違反であり、車や二輪車と一緒に車道を走ることになる。日本と同じに車は左側通行で、自転車は車道の左端を走る。信号ではたいていの場合、交差点と車の停止線の間に自転車専用レーンが車道全幅にわたって設けられており、信号で止まったときは自転車は車の前に出て待つことができる。この自転車専用レーンに車が止まることは法律違反になる。
問題はラウンドアバウトである。ラウンドアバウトというのは、何本もの道路が交差する真ん中に大きなサークルがあり、このサークルにまず合流し、そこから目的の道路に抜けていく交差点である。信号はなく、ラウンドアバウトに沿って走っている車が優先で、ラウンドアバウトに入る車は、ラウンドアバウト上の車が切れるのを待って合流する。慣れれば問題ないと聞くが、出たり入ったりするタイミングを計るのがなかなか難しい。ましてや、車と一緒である。かなり怖い。(私の友人は、イギリスでレンタカーで旅行したとき、ラウンドアバウトから抜けられず、何度もぐるぐる回る羽目になったそうである。)
大きな交差点の右折も、ひじょうに怖い。たくさんレーンがあって、右折、直進、左折とわかれているときは、交差点のかなり手前で、走る車の間を縫って右折のレーンまで入っていかなければならない。また、曲がるときも、あまり左側に寄りすぎると、側溝の溝やふたに引っかかるため、道路の中央寄りを走る。そうすると、すぐわきや後ろに車が迫ってくる中を大きく右に曲がるので、これまた、怖い。
行きはよいよい帰りはこわい、ということで、初日の帰りは、なんと土砂降りの雨であった。防水ズボンをはき、自転車に乗った。ビギナーズ・ラックなのであろう。あまり苦労もせず、疲労も感じず、無事に帰り着いた。もっとも、ラウンドアバウトも右折もうまくこなせず、歩行者と一緒に歩行者用の信号をひとつひとつ渡ってごまかした。
火曜日は、夜出かける予定があり自転車はパスしたので、水曜日が自転車通勤2日目であった。行きはたいした問題もなく、無事に職場に着いた。ところが帰り道、また土砂降りの雨に見舞われた。おまけに、途中で1ブロック手前で曲がってしまい、迷子になった。折悪しく、雨足が一番強い時に道がわからなくなり、さすがに途方に暮れた。とはいえ、まったく土地勘がない場所ではなかったので、なんとか本来のルートにたどり着いて、へろへろになって家に帰り着いた。
汗をかく上に、2回もずぶぬれになると、風邪もひく。その夜から、なんとなく喉が痛く、だるい。10月下旬というのは、ロンドンで自転車通勤を始めるのに適した時期とはいいがたい。
それでも、自転車は買ってしまったし、自転車通勤するって宣言したし。しかたなく、今日も自転車で出かけていった。走っているときは、超極太ロックを体に斜めに掛けている。これが、ずしりと重い。
それでも3日目にして初めて、行きも帰りも雨が降らなかった。また、これも3日目にして初めて、全経路を、「歩行者」にならずに走りきった。
果たしてこの自転車通勤、いつまで続くだろうか。